為替トレーダーらが円に対し弱気な姿勢に転じている。米連邦準備制度理事会(FRB)と日本銀行の政策判断を受けて、日米金利差が急速に縮小するとの見通しに疑問符が付いたためだ。

先週の日米金融政策イベント前まで、ストラテジストらは2025年は円が反発すると予想していた。しかし、日銀の植田和男総裁が追加利上げを先延ばしする可能性を示唆した一方、FRBが来年の金融緩和ペースの鈍化を示したため、市場では円の先行きについて楽観的な見方がしぼんでいる。

オプション指標によると、円に強気な見方は1カ月ぶりの水準まで後退している。米商品先物取引委員会(CFTC)の最新データでは、17日までの1週間にレバレッジファンドの円のネットショート(売り越し)ポジションが4万4926枚に拡大。これは円キャリートレードの巻き戻しが世界の通貨市場を混乱させた7月末以来の大きさとなる。

みずほ証券は最近、25年末のドル・円予想を従来の130円から145円程度に修正した。三井住友海上火災保険も130円から140円に引き上げた。

三井住友海上火災保険市場運用部市場運用チームの杉浦師主任マーケットストラテジストは、見通し修正の背景は「非常にタカ派だったFRBと非常にハト派だった日銀だ」と指摘。「日銀については来年1月の利上げを想定していたが、遠のいた」と説明した。

日銀の植田総裁は利上げ見送り決定後の記者会見で、賃金動向やトランプ次期米大統領の政策について「もう少し情報が必要」と発言。これを受け、円は20日に対ドルで一時157円93銭と7月以来の安値を付けた。為替ストラテジストは、日銀が来年3月まで政策金利を据え置いた場合に円安がさらに進行するシナリオを指摘する。日米の金利差が急速に縮小しなければ、投資家が円を借り入れて、より高い利回りの市場で運用する円キャリートレードが復活する可能性もある。

先延ばし

サクソ・マーケッツのチーフ投資ストラテジストであるチャル・チャナナ氏は、「FRBのタカ派的な傾倒と日銀の利上げ休止は、円トレーダーがキャリートレードを続ける新たな理由になる可能性がある」と述べた。「FRBと日銀の双方からの利回り縮小は来年第1四半期以降に後ずれする」ため、円の上昇も来年後半まで先延ばしになる可能性があると言う。

みずほ証は、来年は政策金利と10年債利回りの日米格差が縮小するため、円が23年初頭以来の水準まで上昇すると予想していたが、FRBの最新の政策金利見通しで来年の0.25ポイント利下げ回数が2回に半減したことを受け、予想を修正した。

みずほ証の山本雅文チーフ為替ストラテジストと三原正義マーケットアナリストは19日付リポートで、修正の理由について「当面は米経済の相対的堅調と金利の高止まりを背景にドルも高止まりする可能性が高まった」と説明した。

ストラテジストは、短期的に円が対ドルで160円まで下落する可能性があると警告する。この水準に達すると為替介入のリスクが高まるだけでなく、日銀が早期に利上げに踏み切る可能性も出てくる。加藤勝信財務相や三村淳財務官は20日、過度な動きに対しては適切な措置を取ると円安をけん制した。

野村証券の森田京平チーフエコノミストと後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストはリポートで、「日銀は追加利上げを3月まで待つ可能性が高い」とし、従来の1月利上げ予想を修正した。短期的には円安が行き過ぎるリスクが高まっているとした上で、25日には植田総裁が経団連審議員会で講演する予定で、日銀がタカ派化する可能性や口先介入に注目していると記した。

--取材協力:George Lei、Carter Johnson.

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