(ブルームバーグ):中国で建設資材会社を経営していたアレックス・チャンさんは慎重に考え、会社の命運を沿岸部の豊かな都市に託した。浙江省杭州、それに江蘇省の蘇州と南京でなら、政府系の建設会社からの支払いは確実だと踏んだためだ。
だが、それから4年を経ても、完了したプロジェクトから1000万元(約2億1500万円)の支払いはまだなされていない。絶望した同氏は最後の手段として、北京に強力なコネがあると自慢する仲介業者を2回の食事でもてなすため10万元を払った。
代金を受け取れるよう働きかけ、新しい仕事を見つけるのを手助けしてもらう算段だった。だが、資金を回収できる可能性は低そうにも思えた。
増え続ける請求に苦しむ経営者を食い物にする怪しげな仲介業者との取引が「うまくいったことを1度も見たことない」とチャンさんは言う。そして、「地方政府は資金不足だ。支払われるまで何年もかかる。みんな追い詰められいる。もうやめたい」と真情を吐露した。
結局、チャンさんの建材会社は破綻。新たに投資する資金もないため、ライブ配信で食品や飲料を販売する電子商取引会社を始めたという。
チャンさんのような人は少なくない。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以後、中国の貧しい地域に打撃を与えていた厳しい財政状況は、景気低迷とは無縁と長らく思われていた地域にも波及。
今や18兆ドル(約2815兆円)規模の中国経済を運営する習近平総書記(国家主席)率いる共産党の力を脅かしている。中国からの輸入締め出しを公約に掲げる第2次トランプ米政権の発足が迫り、習指導部にとって稼ぐ力を維持することは新たな緊急性を帯びている。
中国が景気減速に歯止めをかけるために打ち出した目玉政策は、地方政府の「隠れ債務」を正式なバランスシートに組み替える10兆元規模の支援策だ。
ただ、国際通貨基金(IMF)は地方が抱える隠れ債務の総額を60兆元と推定しており、このプログラムはその一部を対象としているに過ぎない。
地方政府はこれまで簿外債務に大きく依存。「地方融資平台」もしくは「融資平台」と呼ばれる資金調達事業体(LGFV)を数多く設立し、主に公共事業に投じる資金を集めてきた。だが、そうした仕組みは経済成長が鈍化した今、うまく機能しなくなっている。
前例のない不動産不況の傷跡が特に目立つのは、中国の発展をこれまで支えてきた比較的豊かとされてきた地域だ。新たな債務スワップ計画がこうした地方政府を首尾よく救済できるかどうかが判明するには、恐らく数カ月、あるいは数年を要するだろう。
財政難の新たな象徴となっている地域で、数十人にインタビューを行ったところ、明らかになったのはこのプロジェクトに対する懐疑的な見方だ。
地方行政に見られる汚職や不作為がプロジェクトの進展を妨げるのではないかという懸念や、依然として膨大な債務が残りそうだという不安が聞かれた。政治的にデリケートな問題について語ることを理由に、匿名を条件に取材に応じた住民もいた。
既視感
中国政府は以前も同じような状況に陥ったことがある。2015年に12兆元規模の3年間に及ぶ債務スワップを実施した際、中央政府は地方債以外の地方政府の借り入れに対して責任を負わないと表明した。
ギャブカル・ドラゴノミクスの中国調査担当副ディレクター、クリストファー・ベダー氏(香港在勤)は「中央政府が方針を転換する唯一の理由は、地方レベルでの財政逼迫(ひっぱく)が深刻かつ広範囲にわたっており、経済全体を脅かしていると判断しているためだ」と指摘。
債務スワップについて、「多くの省が財政的に立ち直るのに寄与するだろうが、かつてのモデルに戻ることはできない。新たな取り決めでは中央政府が財政負担の多くを担うことになるだろう」と話した。
浙江省のような豊かな省は、わずか1年前には、中国経済の救世主となり、全国的な成長を支える「重要な役割」を担うと期待されていた。
しかし、景気刺激策の計画が具体化し始めると、沿岸地域の当局から5%前後という今年の経済成長率目標を達成するのは難しいのではとの声が出始めた。
繁栄を謳歌(おうか)してきた省も変調を来している。 懸念すべき兆候として、深圳や広州を擁する広東省は1-9月の経済成長率がパンデミック期以来の低水準にとどまった。
住宅価格の急落により、不動産開発各社が土地の使用権購入を控え、主要な歳入源が途絶えた地方政府は苦境に立たされている。企業からの税収も減少。債務が膨らみ、利払い負担も一段と大きくなっている。
広東省のある地域の公務員は賞与(ボーナス)がカットされ、今年の所得が約3割減ったと嘆いた。この男性公務員によると、親戚の勤め先である政府系の非営利団体では、毎月初めだった給与支給が月末に遅れるようになったという。
行政当局は職員の給与・福利厚生費と投資を圧縮。コロナ対策だったロックダウン(都市封鎖)から経済活動が再開して2年が経過した今も、蘇州では会議やサービス外注、公用車の運用・保守に関する市政府予算が依然としてパンデミック前の水準を少なくとも10%下回っている。
歳入をもたらす土地売却の減少が、蘇州市の投資を押し下げている。予算の数値に基づきブルームバーグが算出したところ、インフラ整備のための本予算支出は、23年の10%減に続き、24年は17%減となりそうだ。
原題:China’s Struggling Rich Cities Are Threatening the Whole Economy(抜粋)
--取材協力:Jing Li、Qizi Sun、Shuiyu Jing、Chongjing Li.
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