(ブルームバーグ):来年1月20日の就任式を前に、トランプ次期米大統領の言動は既に世界中に波紋を広げている。トランプ氏による関税賦課の脅しを受け、カナダではトルドー首相の内閣に亀裂が生じ、経済の不振に悩む欧州ではドイツをはじめとして混迷度が深まっている。
世界にとって、一連の混乱はトランプ次期政権が何をもたらすかを予示するものだ。トランプ氏は「米国第一主義」の政策課題を推進する構えだが、政権1期目に同氏の言動を制御する役割を果たしたガードレールの多くはもはや存在しない。多くの国々でポピュリズム勢力が台頭し、トランプ氏の盟友らが既成の指導者たちに挑戦している。

また、次期米大統領の関心を引こうとして内外の政治指導者が先を争う様子は珍しくないものの、就任を控えたトランプ氏の影響力の大きさは極めて大きいと言える。
外交課題のうち、ロシアのウクライナ侵攻を巡っては、トランプ氏が戦争の早期終結を望む意向を示しているのに対し、他の西側諸国はウクライナ支援継続のための方策を探っている。
トランプ氏がウクライナ・ロシア担当特使への起用を発表した退役陸軍中将のキース・ケロッグ氏は次期政権発足前の時点で早くもウクライナを訪問する準備を進めており、大統領選でのトランプ氏の公約実現に向けて早急に作業に取りかかると、今月18日のFOXビジネスの番組に語った。
中東ではイランが支持してきたシリアのアサド政権の崩壊や、ヒズボラやハマスなど代理勢力の弱体化に見舞われる中で、トランプ氏と友好関係にあるイスラエルのネタニヤフ首相やトルコのエルドアン大統領が好機と捉えて勢力伸長を狙う。
中国はこれまでのところ、ソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」を駆使したトランプ氏による攻撃をおおむね回避しているものの、半導体製造や通信、防衛産業にとって重要なガリウムやゲルマニウム、アンチモンなどの金属の対米輸出禁止を発表し、貿易戦争に備えている。その一方で、米国の同盟国である日本やインドとの関係改善の姿勢を示唆し、米国に揺さぶりをかけようとしている。
トランプ氏は21日には、パナマ運河が米国の軍艦や商船に対して「法外な通航料」を課していると批判。中国が運河への影響力を強めていると懸念を示すとともに料金引き下げを要求し、そうでなければパナマは運河を米国に返還すべきだと主張した。
パナマのムリノ大統領は22日、トランプ氏が米国によるパナマ運河管理を復活させる考えを示したことに対し、「わが国の統治権と独立性は交渉の余地がない」と述べ、断固拒否する姿勢を表明した。
米国内では、連邦政府機関の閉鎖回避を目指したつなぎ予算案の成立がトランプ氏やイーロン・マスク氏の横やりで一時危ぶまれる事態となった。また、18日に記者会見したパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は、トランプ氏が実施する可能性のある追加関税の潜在的な影響を一部の金融当局者が織り込み始めたと明らかにした。
トランプ氏当選を受けて暗号資産(仮想通貨)ビットコインが急上昇し、米株価も上昇。こうした中で、現職のバイデン大統領の存在感は極めて希薄となっている。
ワシントンに拠点を置く米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の中東プログラム担当ディレクター、ジョン・アルターマン氏はトランプ政権1期目発足前の2016年当時の状況に関し、「常に不透明感や警戒感があった」と回顧。これに対し「今では、トランプ氏がどのように行動し、米国以外の国々が同氏にどのように反応したかや、何がうまくいって、何が機能しなかったについて非常に多くのデータがある」と指摘した。
しかし、カナダからの輸入品に25%の関税を賦課するとのトランプ氏の脅しを受け、急きょ同氏との会談に臨んだトルドー首相はその後、次期米政権への対応を巡る対立でフリーランド財務相が辞任する事態に直面。トランプ氏に対処するために入念に練り上げた戦略が必ずしも計画通りに行かないことも明らかとなっている。
原題:Trump Upending Global Politics a Month Before Taking Office (1)(抜粋)
(最終段落にカナダの政治情勢を追加して更新します)
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