債券トレーダーが米金融緩和サイクルによってこれほど苦しめられたことはほとんどなかった。だが、2025年も同じような状況になるのではないかと危惧されている。

連邦公開市場委員会(FOMC)が9月に政策金利の引き下げを開始して以来、米10年債利回りは0.75ポイント余り上昇。利下げサイクルの最初の3カ月としては、1989年以来の大幅な上昇となった。この常識に反する動きは損失を招いた。

FOMCが先週、3会合連続の利下げを実施したにもかかわらず、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長ら金融当局者が来年は金融緩和ペースを大幅に減速させる用意があるとの方針を示した結果、10年債利回りは7カ月ぶり高水準に大幅上昇した。

SEIインベストメンツの債券ポートフォリオ運用部門グローバル責任者、ショーン・シムコ氏は「米国債市場はより高くより長くという認識に設定し直し、よりタカ派的なFOMCの姿勢を反映した」と指摘し、長期債を中心に利回りの上昇傾向が続くとみている。

利回りの上昇は、この経済および金融サイクルがどれほどユニークであるかを浮き彫りにしている。借り入れコストが高止まりしているにもかかわらず、底堅い経済によりインフレ率が金融当局の目標を上回る水準で推移しているため、トレーダーは大幅な利下げを織り込むポジションを解消し、債券相場の幅広い上昇を期待するのをやめざるを得なくなった。激しい上下動を経験した1年を経て、今は米国債全体でやっと損益分岐点に達する程度となっており、トレーダーはまた失望の1年になる可能性を目の当たりにしている。

良いニュースとしては、過去の金融緩和局面で有効だった戦略が再び勢いを取り戻していることだ。利回り曲線のスティープ化を見込んだ取引は、金融政策に敏感な短期債が長期債を上回るという賭けであり、最近ではおおむねその通りになっている。

「一時停止局面」

ただ、見通しは厳しい。債券投資家は、現状維持を当面続ける可能性が高いFOMCと向き合う必要があるだけでなく、トランプ次期政権による潜在的な混乱にも直面することになる。トランプ氏は通商政策や移民政策で経済を再構築すると公約しているが、多くの専門家はインフレにつながるとみている。

ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「FOMCは金融政策の新たな段階、つまり休止段階に入っている」と指摘。「この状態が長引けば長引くほど、市場は利上げと利下げを同程度に織り込む可能性が高くなる。不透明な政策を受け、2025年の金融市場はより不安定になるだろう」と述べた。

ブルームバーグのアリス・アンドレス氏は「今年最後のFOMC会合はすでに終了しており、その結果は年明けにかけてイールドカーブのスティープ化を後押しする可能性が高い。しかし、トランプ政権が1月に発足すると、新たな政策を巡る不透明感から、その動きは失速する可能性がある」と指摘した。

金融政策当局者が先週、根強いインフレ懸念がある中で、借り入れコストの引き下げをどの程度速く継続できるかについて、より慎重な姿勢を示したため、債券トレーダーは意表を突かれた。政策金利は20年ぶりの高水準から1ポイント引き下げられたが、当局者は2025年の0.25ポイント利下げを2回しか想定していない。当局者19人のうち15人がインフレの上振れリスクを認識。9月の予測の3人から大幅に増加している。

債券トレーダーはすぐに金利見通しの修正に動いた。金利スワップ取引は6月まで追加利下げを完全に織り込まなくなった。来年の利下げ見通しは合計で約0.37ポイントと、ドットプロット(金利予測分布図)の中央値である0.50ポイントを下回っている。ただオプション市場では、よりハト派的な政策路線に賭ける取引が優勢となっている。

ブルームバーグの米国債ベンチマークは長期債主導で2週連続で下落し、今年の上昇分がほぼ帳消しとなった。FOMCが9月に利下げを開始して以来、米国債は3.6%下落している。これに対し、過去6回の金融緩和サイクルの最初の3カ月では、債券はプラスリターンを記録していた。

最近の長期債下落でも、押し目買いはさほど広がっていない。ジェイ・バリー氏率いるJPモルガン・チェースのストラテジストは顧客に対し、2年債の購入を推奨しているが、今後数週間における重要な経済データの不足や年末にかけた取引減少、新規供給を理由に、より長期の債券の購入には「強い必要性を感じない」と述べている。財務省は今後数日間に1830億ドルの入札を実施する予定。

現在の環境は、スティープ化を見込む戦略にとって完璧な条件が整っている。先週のある時点で、米10年債利回りは2年債を0.25ポイント上回ったが、これは2022年以来の大幅な利回り差だった。20日に発表された11月の米個人消費支出(PCE)統計によると、FRBがインフレ指標として重視するPCEコア価格指数は5月以来の低い伸びにとどまり、利回り差はいくらか縮小したものの、依然として勝ち組の取引だ。

この戦略の背景にある論理は理解しやすい。2年債利回りは4.3%と、現金と同等の3カ月物財務省短期証券(TB)とほぼ同水準にあるため、投資家は短期債に価値を見いだしている。しかし、2年債には、FOMCが予想以上に利下げした場合に価格が上昇する可能性があるという追加的な利点がある。米国株のバリュエーションが伸びていることを踏まえると、資産横断的な観点からも価値がある。

シタデル・セキュリティーズの金利トレーディング・グローバル責任者、マイケル・デパス氏は「債券は株式との比較で確かに割安だと市場はみており、景気減速に対する保険でもあるとみなしている」と分析。「問題は、その保険にいくら支払う必要があるかだ。現在、超短期債を見ると、多額の保険料を支払う必要はない」と語った。

一方、根強いインフレとなお力強い経済から、長期債は買い手を引き寄せるのに苦慮している。トランプ氏の政策が成長とインフレをあおるだけでなく、すでに巨額の財政赤字をさらに拡大させる可能性があることも一部の投資家は懸念している。

1兆3000億ドルを運用するノーザン・トラスト・アセット・マネジメントの副最高投資責任者(CIO)、マイケル・ハンスタッド氏は「トランプ次期政権と支出を考慮し始めると、長期金利は確実に上昇するだろう」と述べた。消費者物価の上昇に対する「かなり手ごろな保険」として、インフレ連動債(TIPS)を選好していると明らかにした。

原題:Bond Traders Turn to 2025 Amid Most Agonizing Easing in Decades(抜粋)

--取材協力:Edward Bolingbroke.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.