日本銀行は2024年12月18~19日に金融政策決定会合を開催し、金融政策運営の現状維持を決めた。植田総裁は現状維持の理由として、見通し実現の確度に関して「もうワンノッチほしい」と述べて慎重だった。見送りの理由として挙げられた春闘と米国に関して見極めに相当の時間を要する点が植田総裁から指摘され、次回2025年1月会合における利上げ観測が後退、大幅なドル高円安に繋がった。

しかし、同時に植田総裁は特定のデータやイベントを待たないと判断できない訳ではなく、総合判断とも指摘している。日本銀行の慎重姿勢がドル高円安の進行を速め、故に7月と同様にビハインド・ザ・カーブの可能性が高まり、最終的に日本銀行は総合判断において1月会合における追加利上げに動くと考えられる。賃金動向に関しては、支店長会議なども踏まえ、1月の展望レポートにおいて一定の判断が示され、追加利上げに繋がると考えられる。

もうワンノッチほしい

日本銀行の植田総裁は、2024年12月の金融政策決定会合後の記者会見において、経済データをオントラックとしつつも、1)春闘に向けた労使交渉のモメンタムと2)米国を含む海外経済の不透明感を理由に、金融政策の現状維持を決めたと説明した。追加利上げに至る見通し実現の確度が「多少上がっている」と位置づけつつ、「もうワンノッチほしい」と述べている。

トランプ次期大統領の政策が不明

米国に関しては、トランプ次期大統領の政策に関して「財政、通商、移民政策等は米経済だけでなく世界経済、国際金融資本市場にも大きな影響を及ぼし得る」と述べた。その上で、報復なども考えられるため、現時点では分析・予想が難しいとも指摘した。

春闘の大枠反映は3月か4月

春闘に関しては「現時点ではあまりにも情報が少ない」と指摘した上で、1月会合までに「ある程度の情報は入ると思うが、大きな姿が分かるのは3月か4月」と述べた。

特定のデータやイベントを待たず

米国の政策と春闘に対する植田総裁のコメントは、見極めに相当の時間を要するニュアンスを与え、実際に金融市場は大幅なドル高円安で応じた。しかし、植田総裁は「金融政策運営においては特定のデータやイベントを待たないと判断できないわけではない」と述べて、会合毎に総合的に判断していくスタンスだ。

為替相場がビハインド・ザ・カーブのリスクをもたらしうる

会合毎の判断を考える上では、7月会合における早いタイミングでの利上げの根拠となった為替相場がやはり意識される。植田総裁は、従前から提示している「為替の物価への影響が以前よりも大きくなっている可能性」に注意しつつ、「対前年比輸入物価上昇率が落ち着いている点も考慮し、為替の物価見通しへの影響を判断していく」、「ビハインド・ザ・カーブのリスクは考慮して、利上げしないで大丈夫かと判断して決定」していくと説明した。そして最終的に「総合判断にならざるを得ない」と総括した。

中立金利判断において0.5%を意識せず

植田総裁は中立金利に関して問われて、7月の記者会見と同様に「0.5%という水準には特に意識を持っていない」と論じた。その上で「中立金利に近づくほど、いろいろなことに気を配って考えていかなければならない」と利上げペースが鈍化する可能性を指摘した。

情報提供、記事執筆:SMBC日興証券 チーフマーケットエコノミスト 丸山義正

2024年12月20日発行レポートより転載