中村委員は製造業出身であり、正常化開始以前から政策委員会の中で最もハト派に位置づけられる。2025 年6 月末までの任期で、今回が最後の金融経済懇談会における挨拶・記者会見と考えられるため、何らかのスタンス変化などがあるか注目していた。
景気・物価認識については、従来通りハト派的なスタンスを示した。金融政策運営について、挨拶では概ねハト派的な見解を示したが、記者会見では複数の発言が利上げ容認と市場では受け止められた。
最もハト派の位置づけだが…中村委員のスタンス
12 月5 日、日本銀行の中村審議委員は広島県で開催された金融経済懇談会に出席し、挨拶および記者会見を行った。中村委員は製造業出身であり、正常化開始以前から政策委員会の中で最もハト派に位置づけられる。
金融政策運営の正常化開始を決定した今年3 月の金融政策決定会合において、中村委員はマイナス金利解除に対して野口委員とともに反対票を投じたほか、長短金利操作の解除に対しても唯一反対票を投じた。政策金利の0.25%への引き上げおよび長期国債買い入れ減額計画を決定した今年7 月の会合では、野口委員とともに利上げに反対票を投じた。
中村委員は、2025 年6 月末までの任期で、今回が最後の金融経済懇談会における挨拶・記者会見と考えられるため、何らかのスタンス変化などがあるか注目していた。景気・物価認識については、従来通りハト派的なスタンスを示した。金融政策運営について、挨拶では概ねハト派的な見解を示したが、記者会見では複数の発言が利上げ容認と市場では受け止められた。
景気・物価認識は慎重なまま
景気・物価に対する認識は慎重さが目立った。挨拶では、景気全体について「一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している」との展望レポートの表現を踏襲しつつも、個別判断では下振れリスクを強調した。特に、中小企業における賃上げの持続性に自信を持てず、個人消費の先行きを不安視しているようだ。
個人消費低迷により、2025 年度以降の消費者物価が+2%に届かない可能性も指摘。前回6月に行った挨拶と同様、成長率、物価上昇率ともに、展望レポートにおける政策委員の大勢見通しから下振れするリスクが高いとの見方を示した。
利上げ自体を否定せず
金融政策運営について、挨拶では「多くのデータを確認し、経済の回復状況に応じて金融緩和度合いを慎重に調節していくことが重要な局面」と指摘するなど、他の政策委員と比べて利上げに慎重な姿勢を示した。
だが、記者会見では複数の発言が利上げ容認と市場で受け止められた。まず、3 月や7 月の利上げに反対票を投じたことについて問われ、「利上げをすることに反対とは言っておらず、利上げの仕方に対して反対した」、「私は超ハト派と言われているようだが、決してそういうつもりでない。経済の状態に沿って改革をしていけばいい」などと述べ、利上げ自体を否定しないスタンスを示した。
また、年内利上げの可能性を問われ、「反対しているわけではない」、「経済の回復の状況に応じて変えていくべき」、「データやヒアリング情報に応じて判断していくべき」との見解を示した。年内利上げの判断材料として、具体的には日銀短観や毎月勤労統計、GDP2 次速報などを挙げた。
情報提供、記事執筆:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト 宮前耕也
2024年12月6日発行レポートより転載