米大統領・議会選で敗北を喫した民主党は、なぜ有権者が共和党に急速に傾いたのかを解明しようしている。そんな中、セス・モールトン下院議員(民主、マサチューセッツ州)によるトランスジェンダーの問題などを巡る分析が大きな注目を集め、波紋を広げている。

モールトン氏は、例えばトランスジェンダーの女性が女子スポーツ大会に参加できるかどうかといったような米国人が関心を持つ問題について深い議論をする意思が民主党にないことが、党の失速につながったと考えている。

同氏は今月、「多くの米国人が直面している問題について、率直に議論するよりも、誰をも傷つけないようにと、あまりにも多くの時間を民主党は費やしている」と米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に語った。

「私には2人の小さな娘がいる。彼女たちが男性、あるいは元男性のスポーツ選手に競技場で突き飛ばされるようなことはあってほしくはないが、民主党員としてそれを口にするのは怖い」と話した。

この発言は、批判の嵐を巻き起こした。民主党のヒーリー・マサチューセッツ州知事は米国で州知事としてレズビアンであることを初めて公表した1人だ。

セス・モールトン下院議員

ヒーリー氏はモールトン氏について、トランスジェンダーの若者にフォーカスすることで「人々を政治的に利用している」と非難。

州内のLGBTQなど性的少数者のリーダーらは謝罪を要求し、モールトン氏の出身地であるセーラム市のカイル・デービス市議会議員は、モールトン氏に議員辞職を求めた。

今年の議会選は共和党が上下両院を制する一方で、民主党も歴史的な瞬間を迎えた。デラウェア州で民主党のサラ・マクブライド氏が下院議員に当選し、トランスジェンダーだと公言している初の連邦議員になる。

すでに、議会の共和党員たちは、彼女が議事堂内の女性用のトイレや更衣室を使用することを禁じようとしている。

米国民の認識

ムーブメント・アドバンスメント・プロジェクト(MAP)によれば、トランスジェンダーの学生が性自認に沿ってスポーツに参加することを禁止している州は、全米の約半数に上る。

アメリカ進歩センター(CAP)がインクルーシブ(包摂)的な方針を採用している州やスポーツ団体から収集したデータに基づき調べたところ、トランスジェンダーの選手がスポーツへの参加や女性の運動能力の向上に影響を与えたことはない。

しかし、米国スポーツ医学会(ACSM)の研究では、「運動能力は生物学的な性別が主な決定要因である」ことと「競技の種類にもよるが、一般的に男性は女性よりも10-30%高いパフォーマンスを発揮する」ことが示されており、その差は思春期の始まりとともに現れるという。

米国民の認識もモールトン氏の意見と同じだ。

ギャラップが昨年実施した調査では、69%がトランスジェンダーのスポーツ選手は、現在の性自認ではなく出生時の性別に一致するスポーツチームでしかプレーすべきではないと考えていることが明らかになった。2021年の調査では62%がそう考えていたが、それを上回る割合だ。

20年に大統領選出馬を目指し、下院の軍事委員会と運輸インフラ委員会、中国共産党に関する特別委員会に所属するモールトン氏は、批判にひるむことはない。

同氏はブルームバーグ・ニュースのインタビューに応じ、自身の発言に対する反応や、民主党が有権者の支持を取り戻すために何をすべきかについて語った。以下は、明瞭性と簡潔性を考慮して編集されたコメントだ。

  • 民主党が敗北した理由は何だと考えているのか。また、そこから何を学ぶべきだろうか
    • 民主党最大の問題は、党の左派が定めたイデオロギーのあらゆるリトマス試験に合格しないと、単に間違っているだけでなく、悪い人間であるかのように扱われるという傲慢な文化があることだ
    • これが多くの米国人が民主党に対して抱いている認識だ。選挙の翌朝、私はチームに今回は「カルチャーを巡る選挙だった」と伝えた
    • 民主党は実態を把握していないと多くの人々が感じているようだというのが私の感触だ。トランスジェンダーの問題のように、大多数の米国人がわれわれの「純度試験」に同意しない問題もある
  • 下院民主党内にも、ニューヨーク州のダン・ゴールドマン、リッチー・トーレス両氏らアイデンティティーポリティクスに重点を置く党の方針を批判する議員がいるが、なぜ特にトランスジェンダーの問題を取り上げたのか
    • メディアはセンセーショナルな話を好む。 経済や移民などさまざまな問題について、私がなぜ民主党が実態から離れてしまったのかを語ったことも話題にできたはずだ。その1つの発言を引用したのはメディアによる選択だ
    • しかし、トランスジェンダーの人々をスケープゴートにしているとして私を攻撃しようとする人々は、明らかに選挙結果を見ていない。共和党は、その問題で勝利を収めた
    • われわれが恐れを抱き、対応することさえできないのであれば、われわれは負け続けるだろう。私はメディアがどの発言を引用したかについて、それほど気にしていない
  • あなたの発言に対する反発についてはどう思うか
    • あらゆる権利団体と向き合うことで、政党として寛容になるために長い間努力してきたが、その結果、不寛容になってしまった
    • そのため、特定の問題について議論を交わすことすらできず、反発を招くことになる。そして、その反発が私の主張を証明したのだ
  • 民主党からは舞台裏でどのような反応があったか
    • 私は論争に慣れている。首を突っ込んで難しいことを言うのはいとわないが、民主党員からこれほどまでに全面的にポジティブな反応を得たことはない
    • もちろん、反対意見を持つ人もいるが、私は、多くのLGBTQの民主党員を含むイデオロギー的に幅広い民主党支持者から電話やメール、テキストで支援を受けた
    • これは世論調査にも反映されている。大多数の米国人が、女子スポーツの競技会に妥当な制限を設けるべきだと考えていることをわれわれは知っている
    • しかし、より大きな問題、つまり、党のキャンセルカルチャーのせいで、われわれは難しい争点に取り組むことができないということこそが、私が思うに、ほとんどの民主党員が反応している問題だ
    • そして、この争点であれ、その他の数多くの論点であれ、われわれがまともな討論さえできないのであれば、われわれの党が今後進んでいく上で、本当に問題だ。共和党は書物を禁止し、われわれは議論を禁止している
  • あなたの発言を批判する人々は、トランスジェンダーのスポーツ選手を「元男性」と表現したことは侮辱的だと指摘しているが、自身の主張を伝えるために、別の表現を使えばよかったと思うか
    • 私は米国で議論を始めたことを謝罪するつもりはない。民主党は、言論の自由という古い原則を忘れないようにすべきだと思う
    • われわれ一人一人が、より慎重な言葉遣いをする方法を見つけることはできるだろう。しかし、われわれは議論を尊重すべき国に住んでいる

原題:‘We’re Banning Discussions’: Moulton on Democrats’ Missteps (1)(抜粋)

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