(ブルームバーグ):こんにちは。布施太郎です。今月のニュースレターをお届けします。
先週、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)など3メガバンクグループの4-9月期決算が出そろいました。日本銀行の利上げや、持ち合い解消の加速による政策保有株の売却益計上など好環境に支えられ、各グループとも通期の業績予想を上方修正し、過去最高益を更新する見通しです。

決算発表翌日の各グループの株価は軒並み値上がりしましたが、中でもみずほフィナンシャルグループ(FG)は2008年10月以来、16年ぶりの高値となる一時3783円を付けました。同じく16年ぶりとなる自社株買いの発表がサプライズとなったためです。
自己資本の薄さゆえに株主還元の強化で他行に後れを取っていたみずほFGもようやく同じステージに追い付いてきました。木原正裕社長は決算会見で「当社は調子が良いときにつまずくことがある」と自戒の念を込めるのも忘れませんでした。
木原氏が社長に就いてから約2年半がたちますが、最近では過去の経営陣が手を付けられなかったグループ戦略上の課題にも取り組み始めているように見えます。はっきりした成果に結実するには時間がかかるでしょうが、行く末をウォッチし続けたいと思います。
リテール事業は楽天カードで布石
みずほFGが弱点領域の反転攻勢に向けて動き出した。相次いで発表した楽天カードとの資本業務提携や系列リース会社トップへの前頭取の就任は、グループ戦略上の「ミッシングピース」となっていたリテール事業とリース事業の強化に向けて打った布石だ。
「22年の就任時からリテール戦略をどうするのかを考えてきた。オープン戦略の下、強みのある人たちと組むこともあり得ると考えた」。みずほFGと楽天グループが14日に開いたカード戦略に関する記者会見で、楽天の三木谷浩史会長兼社長と共に登壇した木原社長はこう語った。
22年にみずほ証券を通じて楽天証券に20%出資した時から、みずほFGの最終的な狙いは楽天カードへの出資だと目されてきた。みずほ証券と楽天証券の提携時には会見は開かれておらず、それだけに今回の会見での発言は、楽天との提携によるリテール事業拡大に向けた自信をうかがわせた。

みずほFGは楽天カードの普通株14.99%を1650億円で取得。まず12月にみずほ銀行と楽天カードの提携カード「みずほ楽天カード」を発行する。利用者はカード決済のたびに楽天ポイントがたまるほか、振込手数料が無料になるなど銀行取引でも特典が受けられる。
みずほのグループ内には、カード事業ではオリエントコーポレーションやUCカードが存在するものの、ライバルである三菱UFJFGの三菱UFJニコスや、三井住友フィナンシャルグループの三井住友カードと比べると力不足は明らかだ。グループのカード事業をどう立て直すのかは、みずほFGの課題だった。過去には、独立系のクレディセゾンの取り込みに動いたこともあるが、実を結ばなかった。
とりわけ金利の復活によって、利率の高さに引っ張られて即座に移動する資金が増えており、銀行にとって粘着性が高い個人の決済性預金の重要性が高まっている。今回の提携カードは、引き落とし口座にみずほ銀行を指定しており、個人の主力決済口座として利用されれば資金が滞留し、安定した調達基盤になり得る。
ただ、楽天カードへの出資比率は15%未満にとどまっており、みずほFGが得られる直接の収益は配当収入だけだ。楽天カードとオリコやUCカードとの協業も打ち出しており、提携の深化を進めて出資比率の引き上げにこぎ着けられるかどうかは今後の課題となる。
系列リース会社社長に前頭取が就任へ
みずほのグループ戦略上のもう一つのミッシングピースだったのがリース事業だ。みずほの系列リース会社には、いまだに旧行のくびきが残る3社が存在する。旧第一勧業銀行系の東京センチュリーと、旧富士銀行系の芙蓉総合リース、旧日本興業銀行系のみずほリース(旧興銀リース)だ。みずほリースにはみずほFGが約23%を出資しているものの、売り上げ規模の大きい東京センチュリーと芙蓉総合はいずれもみずほFGから距離を置く関係が続いている。

その東京センチュリーの社長にみずほ銀行の前頭取だった藤原弘治氏が来年4月1日付で就任する。頭取経験者が系列会社社長を務める異例のケースとなる。
東京センチュリーは09年から11年にわたって社長を務めた旧第一勧業銀行出身の浅田俊一氏が大胆なビジネスモデル改革に努め、同社を業界大手に育て上げた。
一方で、力を付けるにつれてみずほFGとの関係は冷え込んでいった。その象徴が20年に同社が実施した第三者割当増資だ。約930億円の新株発行により伊藤忠商事が30%弱の筆頭株主になり、NTTが10%保有の大株主となった。みずほの出資比率は、親密先の不動産会社などを合わせて三分の一を超えていたものが、約3割にまで低下した。
しかも、同じ時期に東京センチュリーは三菱UFJ銀行に取引拡大を求め、主力取引行のみずほ銀と並ぶ平行主力行の地位に引き上げた。一連の動きでみずほFGが描いていた系列リース3社集約の流れは暗礁に乗り上げた。
二つの期待
藤原氏は、1985年に旧第一勧業銀行に入行。経営企画部門を中心に歩み、2017年にみずほ銀行頭取に就任した。「朝起きて一度たりとも出社したくないと思ったことはない」というほどの熱血漢だ。誠実な人柄でも知られる。21年4月に頭取を退任し、銀行会長に就任する予定だったが、直前の2月に起こったシステム障害で急きょ頭取を続投。再発防止策の策定や当局対応に追われ、翌年会長に就かずに退いた。
東京センチュリーでは顧問を経て、今年6月に社外取締役に就任しており、関係者によると、東京センチュリーとみずほFGの両サイドから社長就任を請われたという。
経営企画部に在籍していた若手時代から旧行意識の払拭(ふっしょく)を呼びかけ、「Oneみずほ」の実現にまい進してきた藤原氏。その双肩には、東京センチュリーのトップとして同社の成長を加速させると同時に、みずほFGとの関係を再構築し両社の連携強化によるシナジーを発揮するという二つの期待がかかっている。
東京センチュリーの広報担当者は藤原氏の社長就任について、同社のプロセスにのっとり決まったものとした。みずほFGの広報担当者は、コメントを差し控えるとした。
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.