トランプ次期米大統領は連邦政府の官僚制度を解体し、少なくとも一つの省庁の廃止を望んでいる。この実現に向け新設する機関が「政府効率化省(DOGE)」だ。

この名称がミーム(インターネット上で急速に拡散された画像や言葉)のように聞こえるとしたら、まさにその通りだからだ。DOGEという名称は億万長者のイーロン・マスク氏の発案によるもので、自身が支持する仮想通貨のドージコインにちなみ、頭字語として使用した。

イーロン・マスク氏

その野望は大きく、2兆ドル(約313兆円)の歳出削減を見込む。よりスリムで効率的な政府という包括的な目標は、民主・共和を問わず歴代の多くの大統領を悩ませてきたが、マスク氏が主導する取り組みも、これまでの赤字削減に向けた努力を頓挫させたのと同じ政治的な反対に直面する可能性が高い。

この効率化に向けた取り組みはマスク氏に加え、共和党の大統領候補指名をトランプ氏と争った起業家ビベック・ラマスワミ氏の2人が主導する。

政府効率化省とは?

まず伝えたいのは、これが「省」ではないということだ。なぜなら省は恒久的なものであり、議会によってのみ設立(または廃止)が可能だからだ。トランプ氏は、このグループは政府外で運営され、2026年7月までに解散すると述べている。

どのように運営されるのか?

それは不明だ。考えられる仕組みの一つは1972年の連邦諮問委員会法(FACA)によるもので、同法では大統領が官民の参加者で構成される委員会から意見を求めることが認められている。トランプ氏は大統領令によってこのような委員会を設置することが可能だ。その場合、同委員会は約1000ある連邦諮問委の一つになる可能性がある。昨年、連邦諮問委にかかった費用は総額3億9900万ドルだった。

ビベック・ラマスワミ氏

倫理的な問題は?

マスク氏とラマスワミ氏が連邦諮問委に参加すれば、いわゆる特別政府職員となる。このポジションは無給な上で連邦政府機関またはホワイトハウスで最長130日間働くことが認められる。マスク氏およびバイオテクノロジー企業の元幹部であるラマスワミ氏にとって考慮すべき重要事項の一つは、このようなポジションでは資産を公表したり処分したりする必要がないことだ。

とは言うものの、マスク、ラマスワミ両氏は依然として連邦倫理法の対象で、個人的に影響が及ぶ議論や決定から身を引くことが求められる。マスク氏の米宇宙開発企業スペースXだけでも150億ドル余りの連邦政府との契約を抱えており、事態が複雑化する可能性がある。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の調査によると、マスク氏の企業は少なくとも20の連邦規制当局の標的になっている。

その目的は?

トランプ氏は、このグループが「政府外から助言と指針を提供し、ホワイトハウスおよび行政管理予算局(OMB)と連携して大規模な構造改革を主導し、これまでにない政府への起業家的アプローチを生み出す」と指摘。このイニシアチブを「現代の『マンハッタン計画』」と称した。

どの程度の歳出削減を目指すのか?

マスク氏は2兆ドルの歳出削減を目標に掲げているが、それが年間の削減額なのか、10年間の予算枠での話なのかは不明。トランプ氏は発表の中で「われわれは、年間6兆5000億ドルの政府支出全体に存在する膨大な無駄と不正を排除する」と年間の数字を使用しており、削減額が前者であることを示唆している。

なぜこれまでこのようなことが行われなかったのか?

実施されたことはある。ただこのような形でなかっただけだ。ワシントンには、実施されなかった歳出削減計画が山積している。

2010年のシンプソン・ボウルズ委員会は、社会保障における受給開始年齢の引き上げ、医療費の上限設定、税制優遇措置の廃止などを通じて、約10年間で4兆ドルの削減を提案したが、議会が行動を起こさなかった。

その後、スーパー委員会と呼ばれる新たな議会委員会が11年にオバマ大統領(当時)と共和党の「グランドバーゲン(包括的な妥結)」を模索したが、失敗に終わった。

共和党が予算の見直しを迫るために利用しようとした政府閉鎖や債務上限を巡る複数回にわたる対立は短期的な解決策に終わった。

そしてトランプ氏自身も16年に「かなり早い時期に」財政均衡を実現すると確約したが、21年の退任時には米国の債務は過去最高水準に達していた。

なぜそれほど難しいのか?

深刻な財政赤字の削減には、第2次世界大戦直後以来見られなかったレベルの緊縮財政が必要であり、おそらく社会保障、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険制度)、メディケイド(低所得者向け医療保険)、退役軍人への給付金といった人気プログラムの大幅な削減が含まれる可能性が高い。

米教育省

何が切り捨てられるのか?

トランプ氏は教育省を廃止し、政策と資金調達の管理を州に戻すと約束した。大統領選直後にマスク氏と会談したアイサ下院議員(共和)によると、マスク氏はメディケアに関する不正の発見と撲滅、公有地の売却拡大に特に関心を示したという。

無駄、不正、乱用についてはどうか?

トランプ氏は、この委員会は「膨大な無駄と不正」を対象にすると述べた。しかし「無駄、不正、乱用」の削減は保守派の政治家が長年唱えてきたスローガンであり、その実現に向けた取り組みは、これまで結果がまちまちだった。

米政府監査院(GAO)の推定によると、不正によって連邦政府機関から失われた金額は毎年2330億-5210億ドルに上るという。最大の要因はトランプ氏が20年に署名して成立した新型コロナウイルス対策支出パッケージだ。AP通信が23年に実施した調査では、4兆2000億ドルのパンデミック救済金のうち10%が無駄に使用されていたことが分かっている。

GAOは11年以降、連邦政府内で重複するプログラムの縮小や廃止、およびコスト削減に向けた2018件の勧告を含む14件の報告書を議会に提出。議会はこれらのうち約3分の2を採用し、約6675億ドルを削減した。

DOGEの提案内容を知るには?

連邦法では諮問委の会議は公開が義務付けられており、マスク氏自身も「最大限の透明性を確保するために、あらゆる行動をオンラインで公開する」と言明している。また、ゲームのような形で国民が情報を入手できる可能性も示唆している。

「最もばかばかしい税金の使い方のランキングも用意するつもりだ。これは非常に悲劇的であり、同時に非常に面白いものになる」と述べた。

トランプ氏は議会の承認なしで削減できるか?

トランプ氏はマスク氏起用の承認を議会に求める必要はないが、議会は憲法の下で予算編成権を握っており、いかなる歳出削減にも議会の承認が必要となる。

しかし、トランプ氏は回避策があると考えている。1974年に制定された、現代の連邦予算審議プロセスの基礎をなす「議会予算・執行留保規制法」の重要な条項に異議を唱える方法だ。同法は議会が撤回を決定しない限り、大統領は割り当てられた予算を執行しなければならないと定めている。これに対し、トランプ氏は昨年「執行留保を復活させることでディープステート(闇の政府)を壊滅させ、問題を解決し、戦争を挑発する政治家を飢えさせる重要な手段を手に入れることができる」とし、「執行留保によってわれわれは容易に資金を断つことが可能だ」とコメントしている。

原題:What Can Musk’s Government Efficiency Department Do?: QuickTake(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.