米プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社ブラックストーンのスティーブ・シュワルツマン会長兼最高経営責任者(CEO)が今回の米大統領選でドナルド・トランプ氏を早期に支持したのは賢明な賭けだったことが証明されつつある。

トランプ氏と数年前から距離を置いていたシュワルツマン氏は今年5月、「変化のために投票する」と宣言。トランプ氏支援へと再びかじを切った。

シュワルツマン氏はウォーレン・バフェット氏やジェイミー・ダイモン氏など著名な企業トップとも一線を画すことになった。バフェット氏らは民主党がハリス副大統領を擁立する中、公には中立の立場を維持していた。

しかしトランプ氏が圧勝でホワイトハウス返り咲きを決めた現在、シュワルツマン氏は新政権において強力な発言力を得る見通しになった。

シュワルツマン氏は、トランプ氏の政権移行チームの共同委員長を務める米投資銀行キャンターフィッツジェラルドのハワード・ルトニックCEOから電話で相談を受けていた。ルトニック氏は次期政権の閣僚・顧問候補を推薦するよう各方面に求めている。

シュワルツマン氏は財務長官候補としても名が挙がっているが、引き受けるかどうかは明らかでない。財務長官に就任する場合は同氏はブラックストーンの株式売却と、売却益の白紙委任信託を余儀なくされる可能性がある。同氏の純資産は推定500億ドル(約7兆7000億円)余りに上る。

シュワルツマン氏が非公式にトランプ氏に助言することになったとしても、ブラックストーンは反トラスト(独占禁止)ルールや通商政策、税法に関する政権のスタンスに影響を与える機会が得られる。シュワルツマン氏は、PE投資会社などの運用マネジャーが受け取る成功報酬「キャリードインタレスト」への税優遇措置を強く擁護してきた。

また、ブラックストーンがリスクに対して十分にヘッジして米大統領選に臨んだことが明らかになっている。非営利団体オープンシークレッツによると、シュワルツマン氏(77)はこの選挙期間中に保守派に3900万ドル強を寄付したが、後継者と目されるジョン・グレイ最高執行責任者(COO)兼社長(54)は民主党の献金者であり、ハリス氏を支持していた。

ジョン・グレイ氏

事情に詳しい複数の関係者は、ブラックストーンの幹部は経営トップの政治傾向が分かれていることは最終的にはビジネスにとって良いことだとみていると語った。

特に緊張感に満ちた大統領選挙の年にこうした多様な視点を持てば、トランプ氏に迎合しているという非難を免れるという利点がある。

ニュージャージー州年金基金運用を監督する同州投資委員会の元委員長で、現在は運用マネジャーを務めるトム・バーン氏は「PEの経営トップがこれほどトランプ氏に肩入れしていることを公的年金が強く批判しないのは不思議でならない」とした上で、「しかし、こうした立場の多くは他の経営陣によってヘッジされている」と指摘した。

曲折

シュワルツマン氏は最終的にトランプ氏支持に回帰したが、その道のりには幾つかの曲折があった。

民主党候補としてヒラリー・クリントン氏が大きな存在感を示した2016年、共和党予備選・党員集会ではシュワルツマン氏は特定候補を支持しなかった。選挙後に同氏は有力経営者で構成される大統領への助言組織「戦略・政策フォーラム」のトップに就任した。

しかしバージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者らと反対派との衝突について、「双方の側」に責任があるとしたトランプ氏の発言が波紋を呼んだ後、シュワルツマン氏は同フォーラムの解散を支持した。

それでもシュワルツマン氏はトランプ政権高官と外国の指導者との連絡役を務め続け、対中関税の一部軽減につながる貿易交渉の一翼を担った。

トランプ氏は米中貿易交渉の第1段階合意の記者会見で、「スティーブ、君がこの合意に全く興味がないことを私は知っている」とした上で、「このステージにいないことが驚きだ」と語っていた。

20年にはシュワルツマン氏は資金面でトランプ氏のウォール街エリート最大の支援者となったことが当時のブルームバーグの分析で明らかになった。

しかし、シュワルツマン氏はその後、トランプ氏と決別。トランプ氏が支持者らに連邦議会議事堂に向かうよう呼びかけた21年1月6日の暴動について、シュワルツマン氏は懸念を表明した。22年には共和党は新世代のリーダーを擁立すべきだと述べた。

しかしトランプ氏が今年、共和党の大統領候補指名を確実にした数カ月後、シュワルツマン氏は再び立場を変えた。

同氏は5月、「反ユダヤ主義が劇的に台頭していることで、私は今度の選挙がどのような結果をもたらすか、一段と急を要する問題として注目するようになった」とし、「私は経済と移民、外交政策が国を誤った方向に導いているという懸念を大多数の米国人と共有している。これらの理由から、私は変化のために投票し、大統領選でドナルド・トランプ氏を支持するつもりだ」と表明した。

トランプ次期政権の財務長官に起用されるのは誰か。

原題:Blackstone CEO’s Trump Bet Pays Off as His No. 2 Provided Hedge(抜粋)

--取材協力:Todd Gillespie、Kara Wetzel.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.