トリプルレッドで2016年トランプラリーの再来?
トランプ氏は2025年末に失効するトランプ減税延長に加えて、法人税率の引き下げ、社会保障給付に対する所得税の免除など、広範な減税策を選挙公約として掲げている。トリプルレッドとなる場合、こうした減税策の実現性が高まりやすく、2025年は減税期待を背景とした株高による資産効果、26年以降は減税の実現を通じて、個人消費を中心に米国経済の押し上げ要因となることが予想される。
とはいえ、トランプ氏の経済政策には不確実性が強く、米国経済及び金融市場の反応も振れ幅が大きい点には注意が必要だ。まず、トランプ氏はGDP比で2.1%に達する財政出動を掲げるものの(責任ある連邦予算委員会[CRPB]の試算)、その全てが実現する可能性は非常に低く、実際の減税規模には不透明感が残る。前述したようにトリプルレッドのシナリオにおいても、共和党の獲得議席は過半数を僅かに上回る水準に留まる可能性があり、この場合には減税策を含む予算審議において、(歳出削減を含む)財政再建を志向する一部の共和党議員への配慮を強いられると見込まれる。
また、トランプ氏は関税引き上げを所得減税の原資とする考えを示しており、前政権のような通商交渉の材料だけではなく、財政再建や議会運営のために関税政策を活用しようと試みるリスクがある。政権初期は米国経済への影響が限定される部分的な関税引き上げを実施する可能性が高いと考えられる一方、仮にトランプ氏の主張する一律10%関税、および対中関税60%が実現する場合、米国のGDP水準は最大-1.0%下押しされると試算される。こうしたシナリオにおいては「減税による好影響」と「輸入物価上昇を通じた物価高の悪材料」が入り混じる展開となるため、先行きの米国経済を巡る不透明感が強まる。
加えて、トランプ氏の主張する減税による消費刺激、関税引き上げによる輸入物価の上昇、移民抑制による一部セクターでの労働力不足の深刻化、これらはすべてインフレを招くリスクがある。インフレ再燃への懸念が浮上する場合、2025年以降のFRBの利下げペースはより緩やかに留まるため、利下げで期待される設備投資や住宅投資の回復が阻害される可能性がある。また、拡張的な財政政策を通じた長期金利の上昇に関しても米国株への重石となる懸念が残る。
なお、トリプルレッドの場合、選挙直後は減税期待による株高、インフレ懸念による金利高及びドル高(円安)が基本シナリオとなるものの、2016年のトランプラリーとの相違点を踏まえると、こうしたシナリオに反して株価が軟調に推移するリスクにも留意が必要だ。具体的には、①2016年大統領選におけるサプライズ的な勝利と異なり、今回は金融市場がトランプ氏勝利を一定程度織り込んでいる可能性、②トランプ減税はあくまで既存政策の延長であり、新規の大規模減税は議会構成を踏まえると実現が不透明な点、③第一次政権よりも共和党穏健派による政権への関与が少なく、関税引き上げを含む過激な政策に歯止めがかからないリスク、などが挙げられる。
ハリス氏勝利+ねじれ議会のリスク
ハリス氏勝利で議会構成がねじれる場合、価格統制を中心とした市場介入、及び法人税や金融所得課税への増税を含む税制改革は実現性が大きく低下し、経済政策は良くも悪くも大きく動かない可能性が高い。トランプ氏勝利よりもインフレ再燃への懸念が抑えられ、米国経済がファンダメンタルズに沿った動きとなる場合、当面の米国経済はFRBの利下げサイクルを通じた設備投資や住宅投資への刺激効果を通じて、堅調に推移することが見込まれる。
一方、ねじれ議会が政治の停滞感を強め、これが金融市場の火種へと波及する可能性には警戒が必要だ。まず、2025年1月1日には既存の債務上限停止が失効し、新規の国債発行による資金調達ができなくなる。これを再開するためには債務上限の引き上げ法案(或いは停止)を議会で可決する必要があるものの、ねじれ議会で党派対立が深まる場合には超党派合意の難航が予想される。実際、前回2023年の債務上限問題の際には、1月に政府債務が上限に到達、上限停止法案が議会で可決されたのは米国債のデフォルトが直前に迫った6月だった。また、2025年末に失効するトランプ減税を巡っては、トランプ氏がこの恒久化を主張する一方、ハリス氏は所得40万ドルを超える高所得層への減税策を打ち切る方針を示唆するなど、両党の主張の隔たりは大きい。両党が2026年以降のトランプ減税で妥協点を見いだせない場合、同減税が自動的に失効、GDP比1.2%分の増税が家計への重石となり景気の急減速を招くリスクがある。