ロシアは1年余りにわたり、ウクライナでの過酷な戦争を遂行するため砲弾や弾道ミサイルの供給を北朝鮮に頼り、両国の同盟関係はますます緊密化している。ウクライナ当局は現在、北朝鮮が軍隊を派遣して支援を拡大する計画だと警告している。韓国の情報機関は18日、北朝鮮軍をウクライナの最前線に送る第一歩として、ロシア海軍が北朝鮮の部隊をロシアに移送したと発表した。これに対し、ロシア大統領府は派兵に関する発表はでっちあげだと一蹴している。

北朝鮮による派兵は何人なのか?

韓国の国家情報院(NIS)は、ロシア海軍の艦船が北朝鮮の特殊部隊約1500人をロシアに移送したと明らかにした。ウクライナへの派兵に先立ち、「適応」訓練を受ける予定で、特殊部隊にはロシア軍の軍服と武器のほか、シベリア出身者のように見せかけるための偽の身分証明書が支給されたという。

NISによれば、2回目の移送も近く予定されており、北朝鮮は約1万2000人の部隊を派遣する見込み。ウクライナのゼレンスキー大統領は、北朝鮮は1万人の部隊を送る準備をしていると述べた。

ゼレンスキー氏によると、ウクライナの情報機関は北朝鮮の戦術要員と将校がすでにウクライナ入りしていると確信しているという。ウクライナの英字紙キーウ・ポストは、ウクライナ軍が3日、ロシア側が支配するウクライナ東部のドネツク近郊をミサイルで攻撃し、北朝鮮の将校6人が死亡、3人が負傷したと報じた。

北朝鮮軍の実力は?

韓国の推計では、北朝鮮には128万人の現役軍人がおり、そのうち110万人が陸軍に所属している。国際戦略研究所(IISS)は世界の軍隊に関する2023年版のレビューで、北朝鮮軍の大部分は旧ソ連時代にまでさかのぼる「ますます時代遅れの装備」に依存していると分析した。北朝鮮軍は70年余り前に朝鮮戦争が終結して以来、ほとんど戦場に出ていない。それでも韓国軍によれば、北朝鮮軍の特殊作戦部隊に所属する20万人の兵士は同国が誇る最高の兵士の一翼を担っているという。米国防総省の情報機関である国防情報局(DIA)によると、特殊作戦部隊は潜入による奇襲や「テロ戦術」を専門としている。

北朝鮮にとってのメリットは?

米国と韓国によると、北朝鮮の金正恩政権はロシアに送った武器の見返りとして、北朝鮮の経済を支え、兵器開発計画を促進する支援を受けているという(武器提供を示す十分な証拠はあるが、北朝鮮とロシアは否定している)。金氏は派兵の見返りとして、おそらくさらなる支援を当てにするだろう。

さらにウクライナに軍が配備されれば、北朝鮮は敵対国である韓国が配備しているものと同様の装備を使用する兵士に対し、自国の軍事戦略や兵器を試す機会を得ることになる。1953年に朝鮮戦争が終結して以来、北朝鮮が海外に部隊を派遣したことはほとんどなかった。

派遣したとしてもおおむね小規模で、例えばアンゴラ内戦時には1970年代後半から80年代前半にかけて推定3000人の軍人を派遣した。ソウルを拠点とする北朝鮮専門メディア「NKニュース」は国連の文書を引用し、金政権が2019年にシリア政府を支援するため約800人の軍人と労働者を派遣したと報じた。北朝鮮はまた、ベトナム戦争中に米軍および南ベトナム軍との戦闘を支援するため、飛行戦隊による限定的な任務を遂行した。

フリン司令官(4月6日、ソウル南部の米陸軍ハンフリーズ基地)

米太平洋陸軍のフリン司令官(陸軍大将)は、北朝鮮軍がウクライナでの戦闘から教訓を得る可能性について懸念を表明。15日に開催された新アメリカ安全保障センター(CNAS)のイベントで「ある程度の学習が行われている」と述べた。

フリン氏は4月、ロシアがウクライナでの攻撃に北朝鮮製ミサイルを使用したことは、北朝鮮に自国の兵器を実戦でテストし、恐らく性能の向上につなげる絶好の機会を与えると警告した。

ロシアにとっての利点は?

ロシアにとっては膨大な犠牲者を出した戦闘にさらに多くの地上部隊が投入されることになる。ウクライナ軍の推定によると、ロシア軍の死傷者数は10月1日時点で65万人強。ロシアが国内で新たな動員を実施すれば大きな反発を招くだろう。同時に兵士を北朝鮮に頼らなければならないのであれば、ロシアが世界第2位の軍事大国との主張は説得力に欠ける。

なぜ北朝鮮とロシアはこれほど緊密な関係なのか?

主要な民主主義国家が世界の安全保障を脅かすとみられる軍事行動を理由に、金氏とロシアのプーチン大統領を孤立させようと努める中、ロシアと北朝鮮は互いに助けを求めるようになった。北朝鮮はロシアの装備と互換性のある大量の軍需物資を保有している一方、ロシアには北朝鮮が切実に必要としている食糧、エネルギー、原材料がある。プーチン氏が今年6月に平壌を訪問した際、両国はいずれかが攻撃された場合には互いに防衛することで合意し、米国とその同盟国が科した制裁に対する反抗的な姿勢を示した。

北朝鮮とロシアにとって何が問題になるのか?

北朝鮮の指導者で、自国の軍隊が海外での戦争で大規模な死傷者を出すという状況に直面した者はいない。北朝鮮の指針となる政策の一つに軍事優先がある。軍隊は社会のほぼ全ての側面に浸透している。北朝鮮兵士のウクライナでの死傷者数が増えれば、金氏は自身の権威を支える軍幹部からのまれに見る厳しい監視に直面する可能性がある。また軍人と個人的なつながりを持つことが当たり前となっている自国民の間に不満が広がる恐れもある。

北朝鮮軍がウクライナに派遣されれば、韓国が戦闘に巻き込まれ、ロシアに跳ね返る可能性もある。米国および北大西洋条約機構(NATO)加盟国から韓国の尹錫悦大統領に対し、戦争中の国への軍事的支援を禁じる韓国政府の政策を見直すよう圧力が強まる可能性が高い。韓国はロシアの攻撃をウクライナが回避するのを支援するためにNATOが求めている武器や軍需物資を保有している。例えばウクライナは砲弾を必要としているが、韓国には数百万発の砲弾がある。

原題:Why 1,500 North Korean Troops Have World’s Attention: QuickTake(抜粋)

--取材協力:Anthony Halpin、Roxana Tiron.

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