(ブルームバーグ):世界最大級の地下鉄網を運営する東京地下鉄(東京メトロ)が23日、東京証券取引所プライム市場に上場する。売り出し株数に対して国内外の投資家から15倍強の需要があったことが判明し、日本株の方向性を占う試金石ともなりそうだ。

複数の主幹事証券会社への取材によれば、海外からの需要が旺盛で、売り出し割当数の35倍強に達した。国内個人投資家からの需要は10倍強、国内機関投資家は20倍強だった。情報が非公開のため、匿名を条件に明らかにした。
日本の株式・金融市場の今後の方向性を左右し得る衆議院選挙を前に全般的に様子見姿勢が強まる中、東京メトロ株が良好な初値を形成し、その後の株価も堅調に推移すれば、海外投資家が日本株市場に改めて目を向けるきっかけになる可能性がある。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは、海外投資家が買える大型株が日本には少なく、限られているため、大型IPOは裾野を拡大し、海外勢の日本市場への関心を高めることから「ポジティブ」だと述べた。
東京メトロの売り出し価格は、仮条件上限の1200円で決まった。個人投資家を中心に世界で最も人口が多い都市で9路線を運行する知名度、鉄道事業の安定性に人気が集まったことを示している。今期(2025年3月期)の1株配当予想40円と公開価格で試算した配当利回りは3.3%と、2%に満たない東証陸運業指数と比べ高いことも投資魅力の一つだ。
公開価格ベースの時価総額は約7000億円と3兆円を超す同じ鉄道会社のJR東日本やJR東海には及ばないが、国内のIPOでは18年上場の大手通信会社ソフトバンク以来の大型案件。新規株式公開(IPO)に際し政府と東京都が保有株式の50%ずつを売り出し、3486億円を調達する。政府保有株の上場規模としては15年の日本郵政以来、9年ぶりの大きさだ。
欧米地下鉄との差
日本株市場の売買代金で約7割を占める海外投資家からすれば、上場規模の大きさだけでなく、東京メトロの正確で効率的な最新の運行システムも注目を集めるかもしれない。負債と老朽化したインフラに苦しむ欧米主要都市の地下鉄とは対照的なためだ。
ロンドン大学のユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)で交通システムを研究するの藤山拓氏は「ロンドンやニューヨークなど、かなり前に建設された地下鉄システムはインフラ問題に直面している」と指摘。東京メトロは利用客の多さと政府の後ろ盾があり、よく整備されているとみる。

日本地下鉄協会が公表する資料によると、東京メトロの路線で最も古い銀座線の全線開通年は1939年。英国のロンドンは1863年、米国のニューヨークは1904年だ。東京メトロの1日当たりの平均輸送人数は約650万人、新型コロナウイルスの終息でインバウンドを含む人流が回復した前期(24年3月期)純利益は前の期比67%増の463億円だった。今期は523億円への増益が見込まれている。
金融アドバイザリー会社のアストリス・アドバイザリー・ジャパンのシニアアナリスト、カーク・ブードリー氏は東京メトロ株について「ブランド認知度のある魅力的な資産だ」と評価。「財務状況はおおむね安定し、大きな変動はない」点にも安心感があると言う。
ふくおかフィナンシャルグループ傘下で、引受証券会社の1社であるFFG証券本店営業部の徳重佑卓課長によると、今回の東京メトロのIPOでは記念に応募してみたいという投資経験のない顧客がいたことが印象的だったと言う。テレビや新聞でIPOの広告が連日露出し、「お祭りのような雰囲気」を感じ取ったのではないかとの認識を示した。
配当に加え、全線切符や定期乗車証、ゴルフ練習場の無料入場券など保有株式数に応じた株主優待も個人投資家が東京メトロ株の保有に前向きとなった要因の一つだ。三菱UFJアセットマネジメントの友利啓明エグゼクティブファンドマネジャーは、優待分も含めると配当利回りは実質4.9%に上昇すると分析。超低金利に長年悩まされてきた個人にとっては魅力的に映る。
ピクテ・アセット・マネジメントSPのジョン・ウィザール氏は、東京メトロは「ハイテク企業でも半導体企業でもないが、一部の投資家、特に保守的な投資家にとってかなりいい利回りだ」と指摘した。
初値は1500円前後か
DZHフィナンシャルリサーチの田中一実IPOアナリストは、東京メトロ株の初値は1500円前後になると予想。その後も株価指数への組み入れがあるほか、証券会社アナリストによるカバレッジも始まるため、11月末までは「イベントを先回りした買いが入る」との見方を示す。
また、政府の売り出し案件のため、「ファンドと違って価格をつり上げることはしないだろうという暗黙の了解がある」とし、個人が安心して買える銘柄だとも田中氏は話した。
一方、企業業績や株価の成長力を重視する投資家は、あまり投資魅力のある銘柄とは受け止めていないようだ。元高校教師でアドバンテストなど約30社の日本株に投資する村田洋一さん(71)は、これまで日本郵政など民営化IPOには投資してきたが、東京メトロは応募しなかった。「株価が2倍、3倍になることはない。東京の路線数は恐らく限界で、人口も減少し、成長は期待できない」とみている。
(第1段落以降に投資家需要の詳細を追記します)
--取材協力:田村康剛.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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