まるでテレビドラマや小説の一場面のような話かもしれない。著名な億万長者が4度目の結婚からわずか数カ月後に自身が築いたビジネス帝国から子どもたちを追い出したのだ。険悪な状況はさらに続いている。

ポーランドで最も影響力のある人物の1人を巡って繰り広げられている後継者争いは国内で大きな注目を集めているだけでなく、この人物のメディア企業やエネルギー企業の株価に打撃を与え、同氏のテレビチャンネルにおける政治的スタンスに疑問を投げかけている。

無一文から大富豪に上り詰めたジグムント・ソロシ氏は、30年前の共産主義崩壊時にポーランド初の民間放送ネットワークを創設した。その後、発電所を買収したほか、ボーダフォン・グループなどから携帯電話事業者を買収するという同国最大の借り入れによる企業買収を実現した。

現在68歳で体調不良が伝えられているソロシ氏の後継者を巡る臆測は9月下旬に浮上した。同氏の子どもたちが家族経営企業の経営陣に宛てた書簡で、乗っ取りの試みに関与しないよう警告したためだ。子どもたちは父親であるソロシ氏と連絡を取ることが難しくなっていると主張し、3月にソロシ氏の妻となった従業員のユスティナ・クルカ氏と対立しているという。

日刊紙「ガゼタ・ヴィボルチャ」によってこの書簡が公開された同日、ソロシ氏は声明を発表し、「現段階で子どもたちを企業経営に関与させることは、会社のさらなる安定にも、子どもたちのより良い未来の構築にも寄与しない」と述べた。

それ以来、ソロシ氏のメディア・モバイルグループ、シフロヴィ・ポルサットと電力会社ゼスポール・エレクトロニキ・パットナウ・アダモ・コーニンの株価が下落し、時価総額全体の約15%に当たる約15億ズロチ(約570億円)が吹き飛んだ。

シフロヴィにとってこの株価下落はここ数年間の苦境に追い打ちをかけるものになった。利益の落ち込みや債務増加に加え、ソロシ氏がポーランドへの原子力エネルギー導入に軸足をシフトさせたことにより、同社の株価は2021年に付けたピークから約70%下落している。

ソロシ氏の健康状態や後継者問題に関する記事がポーランド紙の一面を賑わす中、同氏は7日、数カ月ぶりに公の場に姿を現した。

ビデオリンクを通じてゼスポールの株主総会に参加し、2人の息子を同社の監査委員会から追放した。ただ、その姿は弱々しく、ソロシ氏の健康状態を巡る懸念をさらに高める結果となった。翌日、ソロシ氏はシフロヴィの取締役会から1人の息子を解任。これを受け、株価は一時、7月以来の安値を付けた。

シフロヴィとゼスポールの株式を保有するNNグループのポーランド年金基金責任者、シモン・オゾク氏は「ソロシ氏の健康状態を懸念するのは当然だ」とし、「経営陣は戦略や発展に注力するのではなく、後継者や人事異動、そして誰が実際に(この帝国を)支配するのかということに集中するだろう」と述べた。

ソロシ氏には2人の息子と1人の娘がいる。ブルームバーグ・ニュースが事情に詳しい関係者に匿名で話を聞いたところによると、家族間の争いは7月から8月にかけてソロシ氏と子どもらが後継者について話し合った際に始まったという。

子どもたちが懸念を示しているのはソロシ氏の新しい妻クルカ氏だ。

ポーランドの首都ワルシャワにあるビジネススクールで経営学修士(MBA)を取得したクルカ氏(50)はソロシ氏の会社で明らかに影響力を持つ人物になりつつある。2012年からソロシ氏の会社で働き始めたクルカ氏は6月、シフロヴィとゼスポールの監査委員会に加わった。

クルカ氏の影響力はソロシ氏のスケジュールにも及んでおり、ヴィボルチャによると、クルカ氏はソロシ氏の子どもたちが父親と連絡を取ることを事実上妨げているという。

陰謀論に拍車をかけるのは、来年の重要な大統領選挙を控え、ソロシ氏の人気テレビチャンネルに対する変更が影響を及ぼす可能性があるからだ。大統領選では1年前に政権を失った野党の右派ポピュリスト政党「法と正義」(PiS)が大統領の座の維持を狙っている。クルカ氏はポルサットテレビの番組編成を監督する立場にあり、このテレビチャンネルは国内のテレビ広告市場の約30%を占めている。

一方、クルカ氏は舞台裏での出来事について何も語ろうとしていない。タブロイド紙「スーパーエクスプレス」に対し「自分に関するこのような話を読みたい人は誰もいない。こうした話のほとんどは事実ではなく、このような報道の裏側に何があるのか分からない。そのため私はコメントはしない」と述べている。

原題:Billionaire’s Succession Drama Grips Poland, Hits Stock Market(抜粋)

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