イーロン・マスク氏はロボタクシーの実用化にテスラの未来を託している。しかしこれに全てを賭けるあまり、期待されていた低価格車の開発は二の次となっている可能性があり、他のプロジェクトに取り組む複数のチームは骨抜きとなった。テスラ車の販売減速も深刻視されていないようだ。

このため、ロボタクシーの披露を予定している10日のイベントでマスク氏は方向性の正しさを証明する必要がある。

マスク氏は繰り返し自動運転車の完成は近いと述べてきたが、発表は延び延びになっていた。それでも投資家はここ数カ月、実際に完成したかそれに近い製品を期待して株価を押し上げてきた。投資家の期待に応えるためには、自動運転車の分野で業界をリードするアルファベット傘下ウェイモを上回るような信頼性の高い計画を示す必要がある。

ディープウォーター・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ジーン・マンスター氏は「テスラの発表でテクノロジーの実証がなかったり、動かないプロトタイプ車を披露したりすればそっぽを向かれるだろう」と指摘した。

テスラのイベント「ウィー、ロボット(We, Robot)」はロサンゼルス近郊のワーナー・ブラザース・ディスカバリーの映画スタジオで現地時間午後7時(日本時間11日午前11時)に開かれる。ウォール街のアナリストや多くの著名インフルエンサーらが招待されている。

披露されるロボタクシーに関する予想は以下の通り。

「サイバーキャブ」

  • マスク氏はこのイベントの目玉となる製品を「テスラ専用ロボタクシー」ないし「サイバーキャブ」と呼んでいる。テスラの他のモデルとは異なり、サイバーキャブは運転手を必要としない自動運転車となる見込み
  • サイバーキャブはカメラとコンピューティング能力によってナビゲートする。ウェイモやゼネラル・モーターズ(GM)傘下クルーズは「LiDAR(ライダー)」と呼ばれるレーザーベースのセンサーを採用しているが、マスク氏は価格が高過ぎる上に不要だとしている

デザイン

  • テスラはロボタクシーの最終的なデザインを公表していないが、事情に詳しい複数の関係者によると、フロントシートとバタフライウイングドアを二つずつ備えたものになる見込み
  • テスラが別の新型車も発表する可能性がある。一部の投資家は12人以上が搭乗可能か、自動運搬車両として利用できる「ロボバン」のような新型車が披露されるとみている

テクノロジー

  • テスラがサイバーキャブを実用化するには人工知能(AI)分野で大きな進歩を遂げる必要がある
  • テスラ車のオーナーはこれまで「FSD(フルセルフドライビング)」と呼ばれる自動運転支援システムに多額の対価を支払ってきた。しかし同システムは運転手が常に監視する必要があり、車両を自律走行させるものではない
  • 事情に詳しい関係者2人が匿名で明らかにしたところでは、マスク氏は同イベントでテスラの電動トラック「セミ」向けFSDの開発計画や、FSDの貨物輸送への活用に関する自身の考えを話す見込み。ただ、FSDを実装したセミのデモ走行は行われないという

規制

  • テスラが技術上のブレークスルーを実現できたとしても、ロボタクシーの発売には規制当局の承認が必要となる
  • テスラがワーナー・ブラザーズのスタジオの私道でロボタクシーを披露すると決めたことは注目に値する。カリフォルニア州で自動運転車による商業旅客サービスを提供するには州当局の許可が必要だが、テスラはまだ申請していない。この点でテスラのライバル企業は先行している

ビジネスモデル

  • マスク氏は自身が望んでいるロボタクシーのサービスについて、ライドシェアのウーバー・テクノロジーズと民泊仲介のエアビーアンドビーを合わせたようなものと説明している
  • テスラ車の個人オーナーは自分が乗っていない時、車をロボタクシーとして他の利用者に提供することができる。需要に応じて専用ロボットタクシーが補うことになる

オプティマス

  • マスク氏はヒト型汎用(はんよう)ロボット「オプティマス」の製造を目指して、機能の拡張に重点的に取り組んできた
  • 今回のイベントが「ウィー、ロボット」と名付けられたことから、マスク氏はオプティマスに関する最新情報を明らかにするとみられている。マスク氏はオプティマスの限定生産を来年から開始すると述べている

低価格モデル

  • イベント開催を前にロボタクシーが話題を独占しているが、テスラには、年間販売台数の初の減少が見込まれるという、より差し迫った問題がある
  • テスラの今年7-9月(第3四半期)の納車台数はアナリスト予想を下回った。同社が4月に予告した低価格モデルは来年生産開始のはずだが、このところほとんど言及がない
  • 同社は低価格モデルについて、既存の生産ラインで製造する予定としていることから、セダン「モデル3」やスポーツタイプ多目的車(SUV)「モデルY」の廉価バージョンになる可能性もある

原題:Elon Musk Readies the Robotaxi He Is Betting Tesla’s Future On(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.