イスラエルが10億ドル規模の資金を投じた世界最高レベルの防空システムが、実力を試されている。イランを後ろ盾とするイスラム組織ハマスが昨年10月7日にイスラエルに奇襲攻撃を仕掛けて以降、他の親イラン武装組織もロケット弾やミサイル、無人機をイスラエルに向けて発射。イラン自体もイスラエル攻撃を2回実施し、直近では10月1日に約200発のミサイルを次々と撃ち込んだ。

イスラエルにとって脅威は何か?

  • イラン軍は弾道ミサイルや巡航ミサイル、そして低コストの無人機を大量に備蓄していると考えられている。イランは今年4月、シリアでイランの革命防衛隊司令官らを殺害したイスラエルの空爆に対し、大規模な報復攻撃を開始した際、これら三つの兵器をイスラエルに対し使用。ハマスやレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの最高指導者らが殺害された事件を受け、イランは今月1日にも弾道ミサイルで攻撃した
  • 中東の親イラン武装組織で最強とされるヒズボラとイスラエルは昨年10月7日以降、イスラエルとレバノンの国境沿いで連日のように交戦。イスラエルの評価では、ヒズボラは相当数のミサイルを保有しており、イスラエルの奥深くまで到達し主要都市や軍事基地、空港、電力網、病院などの戦略的資産を標的として狙える長距離ミサイルや精密誘導ミサイルも含まれる。ヒズボラは爆発物を搭載する無人機も保有し、これらはミサイルやロケット弾よりもイスラエルのハイテク防衛システムをすり抜ける能力が高いことが証明されている
  • イエメンの親イラン武装組織フーシ派もイスラエルに向けて弾道ミサイルや無人機を発射している

イスラエルはどんな防空システムを保有しているのか?

  • アイアンドーム:イスラエルの防空システムで最も有名で、活発に稼働しているアイアンドームは2011年以降、ヒズボラやパレスチナ自治区ガザの武装勢力が発射した数千発のロケット弾を迎撃してきた。イスラエルのラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズが開発し、14年以降は米レイセオン・テクノロジーズと共同生産されてきたアイアンドームは、射程が4キロから70キロの短距離の飛翔(ひしょう)体や無人機に対抗できる設計。イスラエル軍によると、アイアンドームは人口密集地域に向かうそれら飛翔体の90%を撃墜できる。イスラエル軍は4月、アイアンドームの海上移動型「Cドーム」が運用可能になったと発表。イスラエルの海洋ガス田や船舶を標的とするヒズボラの攻撃に対抗する際に使用が想定される
  • ダビデ・スリング:イスラエルは17年にラファエルとレイセオンが共同開発した中・長距離迎撃ミサイルのダビデ・スリングを導入した。弾道ミサイルや巡航ミサイル、無人機を検知し破壊するよう設計されており、射程は最長200キロと伝えられる。これはレバノン南部とガザ地区をカバーする距離だ
  • アロー:イスラエルは先進的なミサイル防衛システム、アローも保有する。アロー2とアロー3で構成され、開発者によると、最長2400キロ離れた場所から発射されたミサイルを迎撃できる。長距離弾道ミサイルが一時的に通過する大気圏外でも迎撃可能という
  • アイアンビーム:イスラエル軍はアイアンビームと呼ばれる別のシステムの試験も行っている。アイアンドームより低コストで、近距離から発射された飛翔体をレーザーで迎撃するアイアンビームは25年半ばより前には運用可能とならない見通し

これらの防空システムが突破される可能性はあるか?

ヒズボラは10月以降、自爆型無人機を使いイスラエル北部で被害と多数の犠牲者を既に出した。その多くがイスラエルの防衛システムをすり抜けることができる。

7月19日にテルアビブを襲ったフーシ派の無人機攻撃では、警報が作動せず1人が死亡。イスラエル軍によると、無人機は探知されていたが「人為的ミス」で迎撃できなかったという。

イスラエル軍は多数の飛翔体が同時に発射された場合、アイアンドームを含む防空システムが対処不能になる恐れがあると認めている。全面戦争に突入すれば、ヒズボラは毎日約3000発のロケット弾やミサイルを発射できるとイスラエルは予測する。迎撃システムが想定する能力をはるかに超える数だ。

比較的新しい防空システムの一部は最近になってようやく実戦で試されたばかりだ。イスラエル・エアロスペース・インダストリーズとボーイングが共同開発したアロー3は、23年11月にフーシ派がイスラエル南部に向けて発射したミサイルを撃墜し、初めて戦場で成功を収めた。ダビデ・スリングは23年5月に勃発した戦闘でガザからのロケット弾を迎撃した。

いずれも今年4月のイランによるイスラエル攻撃の際にうまく用いられた。イスラエルと米英など同盟国は、発射された300に上る無人機やミサイルの99%を迎撃。大部分はイスラエルの領空に達する前に撃ち落とされた。

米国は今月1日の攻撃の際にも、再び迎撃を支援。イスラエルと米国は、被害は限定的だったと発表したが、攻撃の様子を撮影した動画を見る限り、イスラエルの防空システムが一部突破された様子がうかがえる。

原題:The Air Defenses Israel Uses Against Iran’s Missiles: QuickTake(抜粋)

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