原発事故による帰還困難区域について、政府が今年6月に新たな方針を打ち出しました。活動を全面的に自由化し、放射線量の管理を個人に委ねることを検討するというのが柱となっています。帰還困難区域のあり方を大きく変える可能性のある今回の方針ですが、住民からは、反対する意見や疑問の声があがっています。



浪江町赤宇木地区・馬場績さん「ここはずっと庭だったんだ。植木があったんだ。で、どうしても残したい木だけ何本か残して…。うん…本当にそうですね。『裸』にされたっていうか…」

浪江町赤宇木地区から避難している馬場績さん。家は明治時代から続く農家で、馬場さんで4代目となります。


馬場さん「夫婦で苦労して新築した家なもんだから、やっぱりここに来れば当時を思い出せるようにねうん。玄関を残そうということで…」

およそ50年前に建てた自宅は、去年1月に解体されました。和牛の飼育も営んでいた馬場さん。隣接する牛舎も自宅とともに解体されました。



馬場さん「解体はここ(牛舎)から始まったんだけど、合掌造りで、ボルト締めでね。セメント瓦だったんだけど、瓦一枚壊れてなかった。だから、解体には相当苦労したみたいだよ。ボルト外すのだけでも何日もかかったって(解体業者が)言っていましたね」

国と東京電力を訴えた裁判の原告でもある馬場さん。今年5月には法廷に立ち、牛舎を解体した際の無念を訴えました。

法廷での意見陳述「屋根も柱もむしり取られ、立ち上るほこりの中に消えてゆきました。重機がかきむしる異様な破壊力に茫然自失でした」


帰還困難区域では現在、帰還を希望する世帯に限って除染し、避難指示解除を目指す特定帰還居住区域の計画が進められています。

自治体は、それ以外の区域についても、早期に避難指示を解除するよう求めてきましたが、今年6月、大きな動きがありました。

与党提言「区域から個人へ」


帰還困難区域での活動について、自民・公明の与党は、自由化を検討するよう政府に提言。

自民党復興加速化本部・谷公一本部長「考え方を『区域から個人へ』と変えて、森林でも一人ひとりが線量計をつけるなど、安全確保を最優先にしながら、しかし、活動の自由化を図る」


提言は「安全確保が大前提」としながらも「区域から個人へ」という考え方を示し、放射線量の管理を個人に委ねた上で、活動を自由化するよう促す内容となっています。およそ2週間後、政府は、提言をほぼ踏襲する形で復興の基本方針を閣議決定しました。

「自治体の意向を踏まえる」としつつ、▼バリケードの撤去▼森林での活動再開などが盛り込まれ、ここでも「区域から個人へ」という考え方が強調されています。