長く愛されている老舗のいまを伝える「老舗物語」。きょうは100年以上続く郡山市熱海町の鮮魚店に注目します。「魚に付加価値を付ける」。どこでもモノが簡単に買える時代に、一風変わった仕込みで魚を提供する4代目の男性に密着しました。

郡山市の磐梯熱海温泉の近くにたたずむ「吉田屋魚店」。明治45年に創業して以来、100年以上にわたり上質な魚をお茶の間に届けてきました。

店を切り盛りするのは4代目の国分謙介さん52歳。店頭に一切、魚を並べないこだわりを貫いてきました。

--国分さん「いつ切ったのかわからない刺身を食べるのが嫌なんで。直前に切ったものを客に渡してあげたい。」

大型スーパーが主流でコストパフォーマンスを重視する時代に、ここでしか出合えない味が多くの人を虜にしています。

--国分さん「量販店と同じ魚を置いていては、値段では絶対にかなわないので、付加価値をつけた状態で量販店では扱えない魚を(販売している)。」

国分さんが話す“量販店では扱えない魚”それは「熟成魚」です。魚を1週間から10日ほど、冷蔵保存し、うまみの元となるイノシン酸を増やします。

これにより、深いうま味が出るだけでなく、食感もしっとりしたものとなり、味わい深い刺身となるのです。

臭みの原因ともなる血を抜く作業など徹底した下処理に加え、刻一刻と変化する魚の状態を見極める嗅覚や触感も求められます。

--国分さん「3日に1回くらいくるんだペーパーとか交換して新しいものに包みな直します。水分とか出てきて、きれいにしておかないと匂いが出てくるので。」

国分さんが作り出す極上の魚を求めて、県内外から客が訪れます。

--訪れた客「(熟成魚を提供する店は)郡山にはいないので。彼には一つの哲学があるから、おいしく魚を食べるということにはすごく詳しいです。」

店は時代の変化とともに歩んできました。初代の亀次郎さんは店頭にずらりと活きのいい魚を並べて販売。店の名前は、修業した鮮魚店「吉安」の店主「吉田」が由来です。

時代は大正、昭和と移り、熱海町は日本三大金山のひとつに数えられた「高玉鉱山」で栄えました。

--国分さん「支店があったときの売り上げ(帳簿)です。買い物に行くのも大変なので向こう(鉱山の近く)に店を出したんだと思う。」

ピーク時には鉱山周辺に6000人が生活していたとされ、おもに2代目の国次さんが支店を開いて、町の暮らしを支えました。そして・・・

--国分さん「2代目が若くして亡くなって父(3代目)が大学を途中でやめて継いだ。それが19歳くらいだったかな。父親というより兄のような感じだった。怒ったり、ビシビシ指導するタイプでもなかったので。」

父で3代目の勝吉さんは、学業を諦めて、店を守りました。魚に妥協をしなかった勝吉さんの姿は、33歳で店を継いだ国分さんの心に残り続けています。

--国分さん「“半分腐っているような(安価な)やつを買うんだったら、高くてもいいやつを買え”という感じだった。いい魚を仕入れるというのは教えだった。お客さんに喜んでもらえれば。」

21歳で店を手伝い始めてから毎日のように市場に通い、卸業者と信頼関係を築きながら魚を仕入れてきました。

--国分さん「(触らなくても)目とか見れば(状態が)わかるし魚の形で脂が乗っているかもわかる。大体みんなおなかとか触るのんですよ。」

積み重ねた経験と尽きることのない好奇心。これが、絶対的な目利きを作り上げています。

--卸業者「熱心にやる“勉強家”。応援したいというのが一番。もっと頑張ってほしいと思います。」

その、国分さん。店の今後について、あることを決めています。

--国分さん「とりあえず自分の代で(閉めるつもり)。子どもには子どもの未来があるので、強要する気はないです。」

自分が店に立ち続ける限り…。国分さんは、これからも、最高の魚を届け続けます。

--国分さん「他の店よりは若干値段が張るかもしれないが、その分を差し引いても、おいしさを取ってもらえるような魚を提供できれば。」

【取材後記】TUF報道部記者 伊藤大貴

慌ただしく時間が流れる市場での取材のこと。仲卸業者が話してくれたことがあります。「この辺じゃ、あの人(国分さん)は異次元ですから。本当においしい。魚に対して”変態”ですよ」このことを国分さんに伝えると、満足そうに答えてくれました。

「最高の褒め言葉ですよね」

魚は毎日食べても飽きない、興味のある魚が出たら値段を見ないで買ってしまう、同じイカでも包丁の入れ方で味は変わる・・・魚への情熱は尽きません。
「こんなことばっかりやっています。だからだめなんですよね。やめたくなるときはありますよ。決算のときは(悩むけど)考えないようにしてる」

そんな国分さんに店の今後を聞いてみると少し意外な答えが返ってきました。

「子どもには子どもの未来があるから(店を継げと)強要はしない。死ぬまで細々できればいいのかな。子どもには公務員になれと。継ぎたいと言われれば。」
淡々とした語り口から感じられたのは、魚を一番おいしく届けるのは自分なんだという揺るぎない自信。いちプロフェッショナルとしてあるべき姿を教えてくれたような気がしました。

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『ステップ』
福島県内にて月~金曜日 夕方6時15分~放送中
(2025年5月29日放送回より)