静岡のいまを深掘りするインサイト。木曜日はSDGsです。みなさんは「葛布)」をご存じでしょうか。原料となるのは、マメ科の多年草の「葛」。この植物は、すぐに雑草化してしまうという課題を抱えています。そこで、この「厄介者」を別のものに生まれ変わらせようという取り組みが進んでいます。

 掛川市の特産品、葛布を扱う小崎葛布工芸です。葛布は鎌倉時代から生産が始まったとされ、800年以上の歴史を持つ伝統工芸品です。軽くて丈夫なうえ、絹や麻とは違う独特な光沢が特徴です。葛布は高級品で、掛川城の天守閣にある襖などにも使われています。葛布の原料となるのは、秋の七草のひとつ「葛」です。道路沿いや河川敷などに自生しています。その繁茂力の高さから、海外では「グリーンモンスター」と呼ばれ、ほったらかしにすると害虫などの被害を生む雑草となってしまいます。
<小崎葛布工芸 小崎隆志社長>「看板、交通標識などに絡んでいって標識が見えなくなる。処分するだけでもずいぶんお金がかかる」
 一方、葛布はコストの安い外国産が出回るようになり、掛川市内に40以上あった専門業者も、今では、小崎さんの店も含め、わずか2軒となりました。そこで葛を有効活用しようと、新たなプロジェクトが始まりました。
<小崎葛布工芸 小崎隆志社長>「葛を粉砕して、このような『ペレット』を作って、これから紙を作っています」
 葛を丸ごと粉砕して棒状のペレットにした後、加工工場で紙にします。葛が10%ほど入った紙の手触りは、少しサラサラとしています。
<寺田亘輝記者>「和紙みたいな感じですね」
 透かして見ると、わずかに葛の色が混ざっているのが分かります。
<小崎葛布工芸 小崎隆志社長>「ペーパーを名刺として使っていただいて、利益を伝統工芸を従事者育成に使っていきたい」
 この「葛を使った名刺」は、地元・掛川市役所をはじめ、導入する企業が増えています。大手通信会社のソフトバンクもそのひとつ。
<ソフトバンクCSR本部 間瀬拓二さん>「取引先やお客様へ、ソフトバンクのSDGsの取り組みを紹介するきっかけになったという声もあるし、社員の取り組みへの意識づけにもなった」
<掛川市 石川紀子副市長>「4月1日に掛川市の副市長になりました、石川紀子です」
 名刺を渡すことで、地元自慢の名品をアピールします。
<掛川市 石川紀子副市長>「名刺を渡すときに、葛に触れていただいて、葛を紹介するきっかけにもなるので、とてもいい取り組みだと感じている」
<小崎葛布工芸 小崎隆志社長>「葛というのは素晴らしいものだという自負があるので、絶対残してやろうという意気込みでがんばっております」
 古くから地元を支えてきた葛とこれからも共生していくため、伝統工芸と地球環境の両方を守ろうという取り組みが動き出しています。