法廷で声荒げ「私がしゃべらんと、わからんでしょうが!」

2024年8月26日、裁判員裁判による初公判。傍聴席は8割ほど埋まった。

被告の男が入廷。車いすに乗せられていて、上下とも、藍色でぶかぶかのジャージを着ていた。

痩せ型で、毛は白く、釣り眉。口は閉じていて、への字。しっかり目を開き、真っ直ぐ前を向いている。

午前10時。開廷。本人確認。

裁判長「あなたの『生年月日』はいつですか」
被告の男「浜松市天竜区水窪町地頭方…」
裁判長「…それは、『本籍地』、ですね?」

男は耳が遠く、補助のヘッドホンを着ける対応がされていたが、意思疎通はうまくできていなかった。発する言葉も、何を言っているのか、聞き取りづらかった。

裁判長が繰り返し聞いたり、裁判官が文字に起こし指差しして見せたりして、なんとか、本人確認が終わった。

起訴内容の確認。
検察が起訴状を読み上げた。
男は、自殺を図るため、自ら自宅の障子紙に、マッチを使って火をつけていた。

裁判長が起訴内容を確認する。

裁判長「あなたは…」
被告の男「(裁判長を遮って、起訴状をぶつぶつと読み上げ始める)あーあー。……よろしくお願いします」

裁判長「あなたが起訴された放火の事件について、言いたいことは、ありますか」
被告の男「(再び起訴状を読み上げた後)とにかく、家族に見捨てられて。要は、飲まず食わずですよ。苦しかったんです。7時の電車が…」

裁判長「ストップ、ストップ。聞いて。今回の放火の事件は、あなたがやったもので間違いないですか?」

男は一段と大きな声で、ハッキリと「間違いありません!」と答えた。

男のヘッドホンが外され、男は席に着いた。

検察側が冒頭陳述を始めると、男が再び遮って話し出す。
裁判長から注意を受けると、声を荒げ、「私がしゃべらんと、わからんでしょうが!」。
興奮する男を、弁護士が落ち着かせる。

検察は、男が初めての独り暮らしで抱いた寂しい思いを、町外に暮らす自分の家族に分からせるために自殺しようと考え、ロープで首を吊ったうえ、近所に燃え移るかもしれないと分かっていながら放火したことを「自らの感情を優先した身勝手なもの」と指摘。

弁護側は、男は犯行当時「生きる意味を失っていた」と、情状酌量を求めた。

閉廷。続きは次回。
男は、いつの間にか、しゃべるのを止め、机に伏していた。

9月2日、第2回公判。開始から30分ほど経ったところで、男が胸を押さえ出し、机に突っ伏した。男は救急車で病院へと運ばれて行った。

再開は未定となった。
(続く)