オペ技術は、地図からナビ、そしてロボット支援へ

「人工関節手術の進化は自動車の運転技術のそれに酷似しています」と聖隷三方原病院の冨永亨関節外科部長(54)は説明します。「初期の手術は、ドライバーである医師が地図を見ながら目的地に向かう感じ。方向感覚が優れた医師とそうでない医師とで術後の成績に差が出てしまっていました」

骨のここをこれだけ削ろうと計画しても、その場所を精密に知ることは難しかったそうです。

「そこで登場したのが”ナビゲーション技術”です。車のナビと同様、どこを削るかを案内してくれるシステムで、手術の精度が飛躍的に向上しました。そして、最新のテクノロジーがロボット支援技術。レーンを外れそうになったら、ステアリングを戻したり、何かに衝突しそうになったら事前にブレーキが介入したりする様な機能を持っています」

導入されたロボティックアーム手術支援システム

同病院が人工関節置換手術用に導入したのが米国ストライカー社の「ロボティックアーム手術支援システム」です。同社によると、2006年に開発された同システムを使って行なわれた手術は2023年12月末までに日本国内で2万例以上。手術を受ける患者はまずCTスキャンで関節の細密なデータを採取され、数週間かけて手術の計画が立てられます。

当日は関節につけた赤外線マーカーとデータを突き合わせ、予定通りに手術が進みます。「ナビのようにこの先何メートルという指示だけでなく、医師が握るロボットアームが決められた分だけ動き、削りすぎそうになるとピタッと止まるので、周りの筋肉や神経を切ってしまうミスが激減しました。また、関節部分の露出が必要最低限になるために、感染リスクや術後の炎症の程度がとても低くなります」と冨永医師は話します。

手術中の冨永医師(右)。ロボットの支援で、精度は格段に向上したという

正確なデータを元に最適なサイズの人工関節を用意できることから器具を準備する医療スタッフの負担も減り、医師は事前にシミュレーションが可能なので「開いてみたら状況が違った」という心配から開放され、手術に集中できるというメリットもあるそうです。

さらに従来の方式と比べると術後の治りも速いというデータもあり、ロボティックアームによる手術支援は今後の人工関節置換手術の主流になっていくのではと見られています。