車いすで九州1周をめざした女性。熊本での6日間に密着しました。
北海道から九州へ、車いすで九州1周
10月5日、鹿児島県出水市から北上し、熊本県を訪れた一人の女性の姿がありました。
中 環(なか たまき)さん、51歳。

この15日前に地元・北海道からフェリーなどを使って福岡県入りし、それから約500キロの道のりを車いすひとつで走り続けている女性です。
ーーー左手の感覚は?
中さん「あるよ、若干ね。ただ鈍いから巻き込む危険があるし、グッと握ることができない」

愛車の車いすは、日常生活用のもの。14年前の交通事故で思うように動かなくなった左半身をカバーしながら、腕の力だけで車いすを前に進めます。
中さんの目的は『九州一周』。

“楽しい九州観光”ではなく、30日間で走り切るという、朝から日没まで走り続ける“過酷な挑戦”です。
なぜこんな過酷な挑戦を?父の死が大きな転機に
中さんの地元は、北海道札幌市。

女手一つで2人の子を育てていた37歳の時に交通事故に遭い、左半身にまひが残りました。仕事もやめることになり、1年ほど引きこもる生活。

そんな時、手に障害がありながらも登山を続けていたという父の死が、中さんにとって大きな転機になったのです。
中さん「『言い訳しないでやりたいことをまず準備しなきゃ!』と思った。障がい者になる前も『子どもが幼い』『女だから』『経済的に』とか言い訳ばっかりで全然やりたいことをやらないで来た」

そこで決意した挑戦が『車いすで47都道府県制覇』です。
これまでの挑戦、そして九州での挑戦
おととしの「沖縄県一周(356㎞)」を皮切りに「四国一周(868km)」も達成した中さん。そして今回の舞台は「九州」です。
初めて九州の地にやってきた中さんですが…。

中さん「歩道っていうより野原だから一瞬でもキャスター(前輪)取られたら、車道に落ちる」
水俣市から芦北町まで、歩道にも草木が茂る山道の連続です。

中さん「ごめん、ちょっと休憩!集中していたら頭が痛くなっちゃった」
道の状況を把握しながらの走行は、より一層体力を使います。

中さんの一日の移動距離は、40~50kmが目標。
走行はひとりの力で進みますが、それ以外の食事などの援助はサポーターが担います。なぜそうしてまで“過酷な挑戦”を続けられるのでしょうか。

中さん「自分で決めたから。辞めるのはいつでもやめられる。それが今じゃないだけかな」

中さん「この石垣どうやって積んだんだろう」
この日は、予定より半日分早く進むことができていたため、天草に向かうルートを少し変更し熊本城にやってきました。
中さん「すごい。日本人に生まれたのにナントカ城に入ったのは熊本城が初めて」

気分転換にと、初めて観光地に立ち寄ったのですが…。
その次の日、天気はあいにくの雨に。
中さんは自身の身体と11キロある荷物にビニール袋で雨対策を施し、一路、この日の目標である上天草市に向かいます。

日没になると、移動はそこでストップ。道の駅などの駐車場で仮眠をとり、日が昇ると、再び走り始めます。
天草五号橋の細い歩道の上から、遠くに熊本市が見えました。

中さん「あんな遠くからこいで来たんだね。最初からね遠くを見て無理と言わないで、ひとこぎ、ひとこぎ、そしたら熊本城から天草に着きまーす」
熊本での最後の夜。中さんに一組の親子が声をかけました。

子「サインをお願いします」
中さん「え、ちょっっと…サイン!?サインなんて考えたことないよ」
子「なんでもいい!」
中さんは、この挑戦で大事にしている言葉を書きました。
『やりたいことは やらなきゃソン!!』

親子と記念写真も撮り、エールをもらった様子でした。
翌日、10月10日。中さんは天草市からフェリーに乗り、島原へ渡ります。
それから9日後の10月19日(木)、午後6時過ぎ。出発から31日目です。

「着いた!」
中さんは無事に九州一周を達成!1086㎞を走り抜けました。そして、31日間をこう振り返りました。
中さん「すっごく楽しかったです九州は!走っていて自分が成長するということが分かったから。(日本をまわる)挑戦をやめないで、次は中国地方を走ろうと思います」
