
冬に向けて、最近の円安による光熱費の上昇は家計にとっては大きなダメージです。今からおよそ50年前、1973年もオイルショックで光熱費が大きく上がった年でした。そんな苦境をものともしない町を当時のニュースが伝えています。

「さて石油不足から、灯油、プロパンガスの不足、そして値上げと最近の世相はきびしさを増していますが、プロパンガス不足などどこ吹く風で、恵まれた天然の地熱で、寒さ知らずの別天地生活を送っているところが、熊本県の小国町にあります。きょうはこの小国町岳の湯地区をご紹介しましょう。

ここ阿蘇郡小国町西里の岳の湯地区は、小国町の中心部から北東に12キロ、大分県境に近い、湧蓋山(わいたさん)にあります。戸数40戸、住民およそ200人のこの岳の湯地区に一歩足を踏み入れると道端や畑、庭先などいたるところから蒸気が噴出し、地区全体をすっぽりと包み込んでいます。


この地区の人たちは、この蒸気の噴出孔を地獄と呼んでいます。地獄は13箇所あり、地熱の温度は100度近く、地区の人は炊事、洗濯、暖房、しいたけの乾燥、牛馬の飼料の煮炊きなど生活のあらゆる面で利用しています。

これは天然のスチームこたつ。地獄からパイプを蒸気で引きこみ、カメをふせて、蒸気を通してあります。屋外が氷点下の気温になっても、室内は10度前後とぽかぽか。石油ストーブなしでもじゅうぶん冬を越せるということです。

地獄は、格好の炊事場です。野菜はザルに入れて、地獄に乗せ、蒸し蓋を被せると、2分間で茹で上がります。

ふかしいも、ゆでたまごは7分間、ご飯は1時間で出来上がり、ガス釜などで炊き上げたご飯と変わりなく、おまけに焦げ付く心配もないといっています。
各家庭ともプロパンガスは備えてありますが、おかずの味付けに使用するだけで、10キロボンベ1本で多いところで二ヶ月、少ないところでは3ヶ月から半年はもつということです。主婦達は「ガスが値上げになれば昔のように地獄を利用します」と平気な顔、まさに天然の暖房に包まれた岳の湯地区は厳しいこの世も天国といったところです」

岳の湯地区を含む「わいた温泉郷」は熊本県を代表する温泉地の一つです。「地獄」は現在も家庭で重宝されている他、地熱の蒸気で丸ごと一羽を蒸した「蒸鶏」は、名物料理として温泉宿やレストランの人気メニューになっています。












