◆「現代の日本でも起こりうること」
非常に重層的な群像劇になっていて、最後の最後で虐殺事件に収れんしていきます。とてもよい脚本でした。池袋の映画館で私と一緒に観ていた埼玉県在住の60代夫婦に、鑑賞後インタビューしました。
神戸:.ご覧になって、どんな印象を持たれました?
夫:はっきり言ってショックですね。自分の父親とか母親から、こういう話を聞いていなかったもので、こんな事件があったとは夢にも思っていなかった。
神戸:役者さんたちの演技について、感じたことがありました?
妻:すごいなと思いました。初めて映画で、本当のリアルな、日本人ぽい日本人を演じていたような気がしたような気がしたんです。涙が出てきちゃって。
神戸:現代の日本では起こりうることだと思いますか?
妻:私はあると思う。弱い人を集中的に攻撃するというのは、残っている。
夫:私もそう思います。自分の心の奥底に行くと、そういう部分が誰しもあるような気もしますし、集団になるとそういう意識はあるような気がしますね。『日本人だから』というより、人間誰しもあるような気がしています。
◆事件を掘り起こしたのは福岡県出身の女性
実はこの福田村事件、語り継がれることもなく、埋もれていました。それを掘り起こしたのは、千葉県在住の辻野弥生さんです。辻野さんは1941年、福岡県生まれ。結婚を機に上京し、千葉県内の地域誌や地方紙などでインタビュー記事を書いてきた方です。地元で福田村事件の聞き取りを重ね、取材を進めてきて、この事件に関する唯一の本を出版しました。それを森監督が読んで映画にしたのです。
※辻野弥生さんは映画の企画に協力し、著作の新装版『福田村事件 関東大震災 知られざる悲劇』(五月書房新社、2200円)を6月に出版しています。
◆「在郷軍人」と遭遇した女子大生
映画を観た後、朝鮮人殺害の現場の一つとなった荒川河川敷へ慰霊祭の取材に行きました。陸軍が多数の朝鮮人を機関銃で射殺したという日本人の目撃証言がいくつも残っている場所です。
ここに、映画にも出演した歌手のパギやんが来ていました。福田村の隣の田中村(現・千葉県柏市)から駆けつけた在郷軍人を演じ、人々を殺害する役柄でした。
河川敷には、私のすぐ隣にとても若い女性が立っていました。慶應義塾大学1年生の白坂リサさんという方でした。
神戸:大学生?
白坂さん:今、大学1年生です。18歳です。
神戸:大震災の虐殺の現場ですが、こういったことに関心がある?
白坂さん:関心はあります。特に『福田村事件』を昨日ちょうど映画館で拝見して、虐殺について知って。今の松野官房長官の対応も日ごろニュースで見ていて、「ちょっと、これはあまりにもひどいな」と。
神戸:ちなみに、『福田村事件』の在郷軍人会で大きな声を出していた方は、この方(パギやん)です。
パギやん:ヒゲの悪いのがいたでしょ? 「この場になって怖気づいたか、福田村分会長!」と言って。
白坂さん:分かりました! えー! よかったです、映画。めちゃめちゃ衝撃的でした。
追悼式の場で、映画の登場人物を演じた役者さんと、前日に観たばかりという18歳の大学生との会話がいきなり成立した面白い場面でした。
白坂さんから「松野博一官房長官の対応がひどい」という話が出てきました。「関東大震災における朝鮮人虐殺について、政府がちゃんと調べていくべきでは」と(記者会見で)質問され、「公式の政府の記録には残っていない」と述べたことを指しています。これはあんまりですね、私も「ひどいな」と思いました。







