朝日新聞記者の三浦英之さんが書いた「太陽の子 ―日本がアフリカに置き去りにした秘密―」が新潮ドキュメント賞を受賞した。このルポルタージュに心揺さぶられたという音楽プロデューサー・松尾潔さんがRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で本作を紹介しながら“正しいこと”とは何かを考察した。

◆「太陽の子」とは?

ノンフィクションを対象とした権威ある文学賞「新潮ドキュメント賞」の2023年度受賞作が8月25日に発表されました。今年の受賞作は朝日新聞の記者・三浦英之さんの「太陽の子」というルポルタージュです。読んで大変心揺さぶられるような感銘を受けましたので、紹介します。

『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密(集英社)』

三浦英之さんはこれまでにも、優れたノンフィクション作品をいくつも出していて、中でも、2011年の東日本大震災発生翌日から被災地に入り、そこで綴ったルポルタージュを朝日新聞で連載したものを単行本化した「南三陸日記」が代表作として挙げられることが多い方です。

「南三陸日記」を書いた当時はまだ30代。40代になった今も大変フットワークが軽く、震災後にアフリカ特派員になった時期から取材を始めて書いたものが、今回の「太陽の子」です。この本には、アフリカ大陸における日本人の振る舞いで、これまであまり知られてなかったことが書かれています。

1960年代の終わりから70年代にかけて「いざなぎ景気」がありました。その当時、日本鉱業という会社がアフリカ・ザイール(現・コンゴ民主共和国)に銅の採掘のための大きなプロジェクトを展開しました。日本鉱業ってピンとこないと思いますが、当時日本の経済発展の根幹を支えていた企業の一つと考えていいと思います。

1970年代には1000人以上の日本人男性がコンゴにいたと言われています。ここで彼らは現地の女性たちとプライベートな関係になりました。その中には妻子ある人も、後に日本で家庭を築いた人もたくさんいるんですが、コンゴの女性との間に子供が生まれたケースもありました。

日本人男性の多くはその子供たちをコンゴに残して帰ってきた、という事実を、三浦さんは知ることになります。このことはフランスのニュースチャンネルが2010年に報じています。その報道では、現地で生まれた子供たちを、日本人医師や看護師たちが毒殺したという疑いまで伝えられました。

このケースは経済的背景で進出した国と現地の国の男女の話ということになりますが、戦争で日本兵が中国に行ったときや、アメリカ兵がベトナムに行ったときにやはり現地で、ロマンスと呼べるかどうかは別として、男女間の接触があって子供が生まれ、そこで子供が置き去りになるということはこれまで何度も何度も繰り返されてきました。

先ほどの「嬰児殺し」が本当にあったかどうかは、三浦さんの本を読んでいただくのが一番良いと思います。とにかく彼の行動力と文章力で「読ませるルポルタージュ」なんですよ。

ちなみに、肝心かなめの銅の鉱山開設プロジェクトは大失敗に終わりました。さびついた採掘の工場だけが残ってしまいました。でも、残ったのは工場だけではありませんでした。日本人男性とコンゴ人女性との間に生まれた子供たち。三浦さんは彼らを“太陽の子”と名づけます。

◆「日本人残留児たちの存在に光が当たることを心から願っています」

きょう、ラジオ番組で取り上げるにあたり、三浦さんからコメントをもらいました。

「三浦英之です。今回、新潮ドキュメント賞を受賞した『太陽の子―日本がアフリカに置き去りにした秘密―』は、日本の高度性経済成長期、アフリカの資源国コンゴに進出した日本の鉱山企業の労働者らが現地人女性と結婚し、紛争勃発で撤退する際に現地に多くの日本人の子供たちを置き去りにしてしまった、という事実を初めて明らかにするノンフィクションです。新潮賞の受賞を機に、多くの人に作品を手に取っていただき、今も現地に置き去りにされたままになっている日本人残留児たちの存在に光が当たることを心から願っています。」