◆物語の世界を決める「設定」

パンフレットには、国王軍の「軍用車」「飛行タンク船」などメカの設定がいっぱい載っています。104号戦車の主砲は若干短く、その分威力も低いが、砲弾は装甲に穴を開けるための徹甲弾で、弾自体は爆発しない。外をのぞくスコープは、操縦席上部にある開閉レバーを操作すると上に伸び、モニター近くのパネルで向きを変えられる――。

作品の中でほんの少しの時間しか出ないものでも、武器や乗り物のそういう細かな設定が、映画や漫画の「世界」を決めていくのだろうと思うんです。
パンフレットを見ると、一瞬しか出てこない魔物にも全部名前がついていて、どんな個性なのか書いてある。こういったことが、クリエートする人たちにとっては楽しいのでしょう。その成果が“編み物”のように総合されて、アニメ映画になっていっているんじゃないかなと思います。

映画の公式ホームページには、「キャラ、メカ、世界観、ストーリーが凝縮された『鳥山先生色』がとても強い作品と評されることをどう思いますか?」という質問があり、鳥山さんが「たしかにそうかもしれませんね。読者のことももっと考えなきゃいけないのに、好みを優先してしまった気がします。プロ失格かもしれません」と答えています。

だからこそ「鳥山ワールド全開」となっていて、ファンにとってはたまらないものになっているのだと思います。原作の漫画『SAND LAND』は全1巻しかないのに、凝縮されている鳥山さんの物語が106分の映画になった。漫画の世界が、ここまでアニメで展開できていることにうれしさを覚えました。

◆作品を生み出すということ

私はずっと、取材相手がいる「ニュース」の世界に生きてきました。誰かを採り上げる仕事です。その延長線上にドキュメンタリーがあります。全く一から創作するわけではありません。私は絵が描けないし、きれいな字も書けないし、楽器が使いこなせないし、ストーリーを紡ぐこともできません。
一方、ゼロから頭の中で考えた設定を組み立てていくのがコミックやアニメです。クリエーターと言われる人たちは、すごいなあと思います。

公式ホームページには、「23年経って映画化されることをどう思いますか?」という質問が出ています。鳥山さんは「これを楽しいって言ってくれる人って、まさに僕にとっては、わかってる神ファン!って感じじゃないでしょうか」と書いていました。

僕は全然「神ファン」じゃないんですが、久しぶりに鳥山ワールドに全身包まれた感じで、とても心地よく楽しめました。子供を連れて行っても喜ぶだろうと思います。福岡県内は19の映画館で、佐賀県内は2館で上映しています。


◆神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。