◆検察官の抗告「世論で封じ込んだ」

神戸:すごく喜んでおられましたね。ところで、鴨志田さんのフェイスブック、別のところで「今回の抗告断念を検察官の英断だなどとプラス評価なんかしないで下さい」とも書いていました。
鴨志田:はい。今回「よかったね」が最初に来たのは事実なんですけども、全く喜んでいていい話ではありません。袴田事件は2014年に地裁が再審開始決定を出しています。それから9年間も再審の審理が続いて、やり直しの裁判に行き着かなかった理由は何なのか? それは、検察官が不服申し立て、即時抗告をしたからなんですね。

鴨志田:2月27日に「日野町事件」で大阪高裁の開始決定が出ています。死後再審で、事件が起ってからもう30年以上経っている事件です。これも、検察官が大津地裁の決定に即時抗告して、大阪高裁でも4年以上審議をして、やっと大阪高裁は再審を認めたら、その1週間後に特別抗告しているんですね。

鴨志田:袴田さんの特別抗告は断念しましたが、全体として見ると、やはり検察官はあくまでも有罪を主張して、再審開始決定に対して不服申し立てを繰り返す姿勢を全然崩していません。今回だけ、たまたま断念しました。言ってみれば「世論の力で封じ込めた」のであって、検察官が英断で引き返したんだ、とは言わないでほしい、という気持ちを込めてフェイスブックに書きました。

◆再審法の改正案を日弁連が提出

田畑竜介アナウンサー(番組MC):今回、検察は抗告を断念しましたが「再審で争えばいいのにな」と思うんですが。なぜいろいろなえん罪事件で、抗告が度々繰り返されてしまうんですか?
鴨志田:やり直しの裁判の本番である「再審公判」で検察官は有罪を主張できるから、言いたいことがあればそこで言えばいいんです。ところが、彼らはすぐ「法的安定性」と言うんです。「裁判のやり直しを安易に認めると、3審制で一度固まった判決の判断を簡単に揺るがすことになるから、簡単に認めるべきではない」とあちこちで言っているのを聞きます。自分たちが有罪だと起訴して、(最高裁まで)3回も裁判官が有罪だと認めてくれたのをなぜひっくり返すんだ、みたいな思いがものすごく強いんだと思うんです。

鴨志田:ただ間違った裁判だったら、袴田さんは死刑になっちゃっていたかもしれないわけです。しかも、そのやり直しの裁判に行き着かせないようにする抗告は、絶対に許されないと思うんですよね。

神戸:法律で抗告を禁止すべきだという意見もあります。これには法改正が必要なんですよね?
鴨志田:はい。日本弁護士連合会は2月に「再審法改正の意見書」を、具体的な条文案も入れて提案したところです。「再審の段階で証拠開示をきちんとやる」ということ、「開始決定に対する検察官の不服申し立ては法律で禁止しよう」ということを、2本柱として主張しています。