◆空間認知の専門家に聞いてみた

これは一体どういうことなのか? 西南学院大学人間科学部(心理学科)の中村奈良江教授が「空間認知」を専門にしていらっしゃるので、お話をうかがってきました。
神戸:人間は、方向を考える時に、海と川を意識したりしているものなのでしょうか。
中村:かなりの方がいらっしゃると思います。実際に私たちが方向を判断する時、一般的には地図を見て「こっちが北だ」と判断したり、太陽の動きで「東がこっち」と判断するんですけど、太陽が見えない時も地図がない時もあるので、これまでの経験から、山から太陽が昇ってきたら「山の方が、東だ」、海に太陽が沈んだら「海の方が、西だ」と、地形を方向に結びつけてしまっている。
神戸:あー…、はい。
中村:方向は、太陽とか磁石とか、何かの手掛かりがないと分からないですよね。ない時は、地形だけで判断するようになる。
神戸:なるほど!
中村:長いこと住んでいる時の地形が方向の手掛かりになる。どこかに移ると、地形だけが持っていかれて、その地形があるのがその方向だと決めてしまう。それで間違う。
僕の感覚は、間違っていなかった。本当にホッとしたんです。
◆海や山だけでなく主要道路の向きで判断も
でも、デパートなどの建物の中にいたら、海も山も見えません。それなのに、なぜ方向感覚がつかめたりつかめなかったりするのだろう?
神戸:天神にいても、いつも川を見ているわけじゃないんです。
中村:そうなんです、海も山も見えないんです。おそらく、海とか山とか川とか、主要な地形に対する「道路の向き」というものを私たちは把握していて、地形の次に「メイン道路の向き」で判断しているんじゃないかな、と思うんですよね。
神戸:間違いなく、私はそうです。渡辺通りが、少しだけ西に傾いていますよね。
中村:すごーく正確だと思います。ほとんどの人は北に向いていると思ってます。
神戸:うちの妻は「全く考えない」と言っていました。「そんなことを考えているのはおかしいよ」と言われたんですけど。
中村:そんなことないです。大都市から移って来られて、福岡に来てショックを受けられる方がだいぶいます。前に、大阪の方も同じことをおっしゃいました。
神戸:よかった、勘違いじゃないですね。
中村:そうですね。
◆頭の中にある2種類の「地図」感覚
面白いですね。方向感覚を考える時に、2つの種類に分けて考えるといいらしい、と先生が話されました。
神戸:妻から「あなたは本当に方向感覚が悪いね」と言われた時のショックは、非常に大きかったんです。
中村:いや、そうではないですね。ものすごく大きな範囲で東西南北を把握して方向を基準に行動する。その次に狭い領域ってやる。参照するから間違えるのであって、参照する人の方が基本的には方向感覚がいいんですよね。
神戸:ふむ、そうですよね。
中村:参照しないでも、全部覚えていれば行けるんです。
神戸:方向じゃなくて、「次は右に曲がる、次には左に曲がる」と覚えている人は行ける…。
中村:名前がついていて、そういうのを「ルートマップ」と言っていて、全部を参照するのを「サーベイマップ」と言うんです。
神戸:サーベイは、「俯瞰している」という意味ですね。ルートマップとサーベイマップ。僕は、サーベイマップで行動していて、それを1回変換しなきゃいけないから、福岡でかなり苦しんだ、と。
中村:そうです、そうです。
「ルートマップ」と「サーベイマップ」、2つあるんですって。妻はルートマップで、「右に曲がる、次は左に曲がる」と考えて動く人。私はサーベイマップ、頭の中でなんとなく地図を思い浮かべて動く人。
何度も引っ越ししている人は、サーベイマップ感覚が生まれにくい、というのです。妻の親は転勤族だったので、海がどちらにあるかなんて関係ない。







