「共に戦った英雄」の血筋という共通認識
中朝関係の緊密化は、この1か月で急速に進みました。9月には北京での「抗日戦争勝利80周年記念式典」の後に、6年ぶりとなる習近平主席と金正恩総書記による中朝首脳会談が行われました。
習主席はこの会談で、金総書記の式典出席について「中国と北朝鮮のさらなる友好協力関係を発展させる、そのきっかけを提供しました」と語っています。これは、金総書記の祖父・金日成氏が「抗日パルチザン」であり、習主席の父・習仲勲氏が日中戦争当時の革命拠点指導者だったという、「共に日本と戦った英雄の血を受け継ぐ」という共通認識を、両指導者が確認し合ったと読み解けます。
このトップ同士の確認を受け、北朝鮮の崔善姫外相は、金総書記の訪中に同行した後、同じ9月に再び北京を訪問しました。中国側の招待による4日間の滞在で、李強首相や王毅外相と会談しました。王毅外相が「私たちの責任は、両国の最高指導者が達成した重要な共通認識を徹底することだ」と語ったように、中国首相の16年ぶりの北朝鮮訪問も、このトップ間の共通認識の徹底が目的だったと言えます。
韓国への接近と「くさびを打つ好機」
一方で、中国は韓国との関係改善にも動いています。9月には韓国の趙顕外相が訪中し、王毅外相と会談しました。尹錫悦前政権時代に悪化した日米韓の安全保障協力を巡る対立から、李在明現政権は対中関係の改善を目指しています。
韓国は10月末から自国でAPEC首脳会議を開催し、習近平主席を迎える立場にあります。また、9月末には、韓国政府が中国人団体観光客への入国ビザを8年ぶりに免除するなど、李在明政権の中国への融和的な姿勢が顕著です。これは、お金を落としてくれる中国の団体観光客を呼び込みたいという実利的な側面もあるのでしょう。
中国にとっても、トランプ政権が同盟国の韓国に負担増を求めて圧力をかけている「今」が、米韓の間にくさびを打つ好機と映っているはずです。
しかし、北朝鮮外相への厚遇と、韓国外相への対応を比べれば、中国が北朝鮮をより重視しているのは明らかです。この「格差」を差し引いても、中国が北朝鮮との記念行事を祝い、同時に韓国への接近を仕掛ける一連の事象は、朝鮮半島問題で中国がよりリーダーシップを発揮しようとする思惑を見て取ることができます。