懸念される「非核化」の放棄

ここで気になるのが、中国の首脳や要人がこれまで繰り返し主張してきた「朝鮮半島の非核化」という表現が、このところ言われなくなったことです。

金正恩総書記は9月、「非核化は絶対にあり得ない」「核の盾と剣を絶えず研ぎ、更新しなければならない」と宣言し、北朝鮮の外務次官も国連総会で「我々は核を絶対に放棄しない」と訴えました。核開発をさらに進める姿勢を明確にしています。

かつては北朝鮮の核問題を協議する6か国協議の議長国だった中国が、今や「非核化に向けて役割を果たす」と言わなくなったのは、「核の存在する北朝鮮、核の存在する朝鮮半島」を認めたうえで、周辺環境の安定を目指そうと舵を切ったのではないか、という懸念を抱かせます。

金正恩体制のもとで北朝鮮の核開発が進む中、中国のこの姿勢の変化が、のちの時代に「2025年が転換点だった」とならないか。日本としては、次の総理選びが混沌としている中で、周辺国が仕掛けてくる外交戦を冷静に注視し続ける必要があります。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める