◆老いし父が嘆願に東奔西走

藤中松雄の長男と次男

この時28歳の松雄は、19歳の時にミツコと結婚して藤中家に婿入りしているが、生家では四男だった。(手紙の文中では「松夫」と表記)父はそれなりに高齢なのだろう。松雄は、自分のために東奔西走する父のことを思うと涙がこぼれ、タオルを手に手紙を書き続けている。

<藤中松雄が兄に宛てた手紙 1949年9月20日付>※一部現代風に書き換え
嘆願の事が色々書いてありましたが、心から喜んでおります。たとえ松夫は死するとも、なお(巣鴨に)残っている人にも、弟同様に今後も続けて頂けば、幸甚の至りと思っています。
老いし父が、郡下はもとより郡外を問わず、今日は東、明日は西と東奔西走、遠近も眼中になく、重い足を運ばれ、御同情ある各寺院方々の御署名を戴きに早朝より晩遅くまで炎天下を駆け回っておられるとの事、兄さん、この父の大恩に私は何と言ってよいやら、その言葉を知りません。松夫は仕合わせ者です。何と勿体ない事でありましょう。ああ、父の心中如何にやあらん。
松月伯父さんの便りも「お父さんはこれこそ親でなければ出来ない真剣さで、一生懸命に嘆願書を集めたりされておる」と、一途にこの松夫を思い案じて、とぼとぼと今日はあちら、明日はあさってにと、老いの身をいとわず行かれる父の姿・・・
兄よ、察して下さい、もう何も書けなくなりました。左手にタオル持って、ようやくここまで書きました。父の姿が如来様の様に眼前に浮かんできます。南無阿彌陀佛