「〇〇さんは大丈夫なのか?」アインのつぶやきに・・・
アインにはすぐにすべての事情を正直に伝え、事前の検討不足を謝罪した。
救いは、オクラが順調に育っていることだった。

オクラの栽培・収穫さえ成功してくれれば、売り先がどこであれ、彼らの収入になる。
支援しようとして、逆に彼らの不利益につながる結果になることだけは避けたかったので、その点では少しだけ安心することができた。
アインには収穫できたオクラはすべて好きなところに売っていいと伝えた。
一番高い値段で買い取ってくれるところに売って、少しでも多くの収入が得られるように。
アインから状況を理解したという趣旨の返信があり、最後に「〇〇さんは大丈夫なのか?」と、撤退した協力企業の担当者を心配する言葉があった。
会社の中で担当者の立場が悪くならないかを気にしているのだ。
実はアインは、担当者が国境地帯に足を運ぶたびに、それによって企業が負担するであろう費用のことを考えて複雑な気持ちになっていたそうだ。
「正直なところ、どうやって企業が利益を出すつもりなのか、わからなかったから・・・」事業の行き詰まり感はアインにも伝わっていたのだと知って、改めて辛い気持ちになった。
もっともっとアインとも会話をしながら事業を進めるべきだった。自分の能力のなさを実感するとともに、同じ失敗は繰り返さないと誓った。
(エピソード9に続く)
*本エピソードは第8話です。
ほかのエピソードは以下のリンクからご覧頂けます。
#1 川を挟んだ目の前はミャンマー~軍の横暴を”許さない”戦い続ける人々の記録
#2 野良犬を拾って育てる避難民
#3 農園の候補地を下見 タイ人の地主に不審者と間違われる
#4 治安の悪化のニュース そして深夜に窓を叩く音 恐る恐る外を覗くと・・・
#5 オクラを作ろう!ようやく動き出した事業
#6 アインの妻が妊娠 生まれてくる子供の未来は
#7 オクラの栽培がスタート しかし”目の前が真っ暗”に…支援とビジネスを両立する難しさ
#8 協力企業の撤退で振出しに戻った事業~日本にいる間に考えたこと
#9 違和感ぬぐえぬ、福岡市動物園ゾウの受け入れ
#10 農園での結婚式~困難の中にあってもそれぞれの人生を生き抜く人々
連載:「国境通信」川のむこうはミャンマー~軍と戦い続ける人々の記録
2021年2月1日、ミャンマー国軍はクーデターを実行し民主派の政権幹部を軒並み拘束した。
軍は、抗議デモを行った国民に容赦なく銃口を向けた。
都市部の民主派勢力は武力で制圧され、主戦場を少数民族の支配地域である辺境地帯へと移していった。
そんな民主派勢力の中には、国境を越えて隣国のタイに逃れ、抵抗活動を続けている人々も多い。
同じく国軍と対立する少数民族武装勢力とも連携して国際社会に情報発信し、理解と協力を呼びかけている。
クーデターから3年以上が経過した現在も、彼らは国軍の支配を終わらせるための戦いを続けている。
タイ北西部のミャンマー国境地帯で支援を続ける元放送局の記者が、戦う避難民の日常を「国境通信」として記録する。

筆者:大平弘毅