運営費交付金減額の影響

それから20年。どうなったかというと、教授会などの役割が制限されて、学長に権限が集中してしまいました。学長に経営能力やマネジメント能力が問われることになったんですが、そもそも国立大学の学長たちがそういう資質を持っている人物ばかりかといえばそうとは限りません。

これが私立大学だと、学長とは別に理事長がいて、運営に特化したスタッフもそろっているわけです。もっとも、近ごろは私物化に走ってしまうとか、問題も多いので、もちろんそこの功罪も問われるところはありますが。

話を戻して、「もう限界です」という言葉を国立大学協会長に言わせてしまっているという現実。これは結局、運営費交付金が減額されたことで、申請して受け取ることができる、いわゆる競争的資金というものへの依存度が相対的に高くなっているために、その申請に教授たちが追われ、本業である研究が疎かになっているということです。

その結果、国立大学の研究力が落ちて、人気も無くなっていく。人材は海外に流れ、あるいは留学生も学費が無料になる諸外国に奪われ、もはや日本の国立大学のライバルは、同じ日本国内にある私立大学だけでもないというような状況にも繋がっています。

国立大学の中でもトップクラスの東京大学が「学費の値上げを検討」、私立の雄である慶応大学が「国立は学費をあげてほしい」というようなことを言ったという報道がありましたが、地方の国立大学からするとたまらない状況だと思います。国立大学は、目的が私学と必ずしも同じではないですよね。人材の養成に加え、その地域との結びつきということもありますので。

私立大出身の首相が当事者意識を持って考えられるのか

20年前の行財政改革のとき小泉政権だったという話をしましたが、小泉元首相は慶応大学出身です。僕が子供の頃の総理大臣というと、岸信介と佐藤栄作でしたが、彼らは東京帝国大学を出て、官僚になって、それから総理大臣みたいな。福田赳夫さんや中曽根康弘さんもそういうルートでした。

第一次中曽根内閣は1982年、約40年前に発足していますが、これ以降、国立大学出身の総理大臣は、82年から87年の中曽根さん、89年の宇野宗佑さん(旧制官立大学の神戸商業大学)、91年から93年の宮澤喜一さん(東京帝国大学)も国公立大学卒業でした。民主党政権になって2人合わせて2年間と短いですが、鳩山由紀夫さん(東京大学)と菅直人さん(東京工業大学)。この5人以外、40年間ずっと私立大学出身の人が総理大臣なんですよ。

つまり、小泉政権で国立大学の交付金が減ったと言われていますが、その後の20年間ほぼ、国立大学の人が総理大臣になったことはない。これで関係あるのか、ないのかって話になっちゃいます。

つまり、歴代の総理大臣たちが、国立大学の財政問題について、どれほど当事者意識を持って考えているのかというのも気になります。「他に削るところがあるだろう」と言いたくなります。次の国政選挙のときは、こういったことに関しての目配りもしながら、投票するべきではないでしょうか。