中国と台湾の関係を論じるとき、登場する舞台に金門島がある。中国の福建省に近い離島で、観光地としても人気があるが、この島は台湾が実効支配している。この金門島がいま、改めてクローズアップされているという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が3月21日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介した。
◆金門島近海をめぐる駆け引き
台湾といえば、あのサツマイモの形に似た台湾本島をイメージするが、ほかにいくつか離島があり、台湾が支配する島も含まれる。金門島もその一つだ。
金門島はいくつかの島で構成されている。一番大きい島(=大金門島)は面積にして132平方km。福岡県なら135平方kmの嘉麻市、佐賀県なら126平方kmの嬉野市と同じぐらいだ。
その金門島は台湾本島まで200km以上離れているが、中国福建省の港町アモイまではわずか15kmしかない。台湾本島とずっと離れているのに、台湾と対立する中国とは目と鼻の先。共産党と国民党の間で起きた内戦時、最前線だった。
今週18日のこと。中国政府で台湾政策を担当する部門がこんな発表をした。
「本日午前4時、金門島近くの海域で、航行できなくなっていた台湾の釣り船一隻を発見、乗っていた2人を救助した。食事や温かい水、綿の衣服を提供するとともに、台湾の家族へ電話連絡、また2人と船を直ちに台湾側へ送り届けた」
「台湾海峡双方の人民はそもそも同じ家族だ。助け合うのは人道主義の精神を体現し、台湾海峡両岸の同胞の血のつながりを示すものである」
中国の船が台湾の人を救助する――。いい話だが、それを中国側が大々的に宣伝したその背後には、ある駆け引きがある。
金門島付近の海域は台湾が管轄する海域だが、ちょうど1か月前、こんな出来事があった。
台湾の警備当局が金門島沖で、違法操業していた中国漁船を発見した。漁船は逃走しようとして転覆し、海に投げ出された4人のうち2人が死亡した。中国政府の台湾政策担当部門は事故後、即座に台湾側を非難する声明を出した。
一方、台湾で対中政策を担う大陸委員会は「法に基づいて職務を執行した」とコメントした。違法操業の中国漁船が停船命令を拒み猛スピードで逃げ自ら転覆した、と理由を説明している。「責任はこちらにはない」というわけだ。
◆「そもそも禁止・制限水域は存在しない」
対立の前線。その周辺の海域では漁業権などをめぐる摩擦もある。
台湾側の統計では年間30隻から40隻の中国漁船が、台湾側に拿捕されている。今回の事態を受け、中国海警局は周辺海域で、パトロールを強化し始めている。海警局とは事実上、海軍と同じ軍事機関。日本との間でも、尖閣諸島周辺にたびたび侵入しているのは、この海警局の船だ。
中国側にとっても、自国の漁民を守る――という姿勢を、国内に示さないといけないのだろう。事実、海警局は「周辺海域の操業秩序を維持し、漁民の生命と財産の安全を守る」とコメントしている。同時に、中国政府の台湾政策部門はこんな言い方をする。
「台湾は中国領土の一部だ。いわゆる『禁止・制限水域』は、そもそも存在しない」
金門島周辺では台湾側が「禁止水域」や「制限水域」を設定し、中国側の船が許可なく立ち入ることを禁じてきたが、中国側はたびたび侵入している。
この言い回し、どこかで記憶にないだろうか。今年2月から、中国政府は、台湾海峡上空に設定している民間機の飛行ルートを変更した。それまでより、台湾本土寄りのルートを飛び始めた。この変更を行った時、中国の航空当局は、こんな説明をした。
「台湾は中国の領土の一部だ。海峡において、いわゆる『中間線』は、そもそも存在しない」
「海」と「空」の違いだけで、そのほかの文言はほぼ同じだ。「台湾が管轄する水域などは存在しない」。つまり台湾側には水域の管轄権はないと、否定するものだ。中国側は対抗措置も取った。転覆事故から5日後、金門島を周遊していた台湾の観光船1隻が中国の海警局から立ち入り検査を受けた。いわゆる臨検と呼ばれる行為で、台湾側を威圧する狙いがある。