創業134年。江戸時代の景観を今に残す大分県竹田市で、長年地元の人たちに愛されてきたサンドイッチの名店「今勢屋」(いませや)が看板をおろした。体力の限界を感じたと話す店主。跡を継ぐ人もおらず閉店を決断。営業最終日は多くの人が列をつくり、別れを惜しんだ。
「今勢屋」(大分県竹田市)は1890年、せんべい店として創業。その後、電気店など業態を変えながら、菓子や日用品などを扱うコンビニエンスストアになった。名物は店主の衛藤五十鈴さん(76)が手作りするサンドイッチ。41年前に商品化、一番人気のフルーツサンドをはじめ約20種類を販売。大きめの具材をつめ、素朴で食べごたえのある味わいで地元の人たちに親しまれてきた。

6年前に他界した3代目の信也さんと結婚して51年。従業員とともに店を切り盛りしてきた衛藤さんだったが、体力の限界を感じ、跡を継ぐ人がいないこともあり閉店することを決めた。
衛藤さん:
「自分が元気なうちに、みなさんに迷惑がかからないように店を閉じたほうがいいと思って。ここに来て50年だから、そろそろいいかなと思って決断しました」
営業最終日となった1月31日。いつもより早い午前4時から最後の仕込みに取りかかる。いつもの3倍以上のサンドイッチを用意。こだわりの卵に新鮮野菜のサラダ、毎日作るサンドイッチは分量や厚みまで体が覚えている。

午前9時のオープン前、店先にはすでに行列ができていた。「もう食べられないと思うとさみしいです」「風邪をひいて食欲なくても、親がここの卵サンドを買ってきてくれて…それだけは食べられてたので。さみしいですね、なくなると」と涙ぐむ女性も。
準備を終えた衛藤さんは客の待つ外へ出て、「涙が出そうですが、きょうが最後です。本当にありがとうございます」と一礼。「おつかれさまでした」と客からねぎらいの言葉と拍手が送られた。オープン後も来店客が途絶えず、サンドイッチは午後1時に完売した。
娘・佐々木のぞみさん:
「小さい時から店があったんですけど、私はずっとお店の手伝いをしていたので、やっぱりさみしいという気持ちです。父が先に亡くなってしまったので、母がどこまでがんばるかなっていうのはあったんですけど、母が最後までやりきってよかったなと思います」
衛藤さん:
「思い出すのは楽しいことばっかりです。私のここでの50年は恵まれた生活でした。本当にありがとうございます」
惜しまれつつ134年の歴史に幕をおろした「今勢屋」。長年親しまれてきたサンドイッチは、数えきれない人たちの中に思い出の味として残り続ける。
