「ストレスって言われても、皆さんストレスもあるし、私だけが 『ストレスで…』 って…なんかそれは違うよねって、当時の私は思ってたんですよ」

看護師長からの助言で1週間休んだ──
そこで、糸がぷつっと切れた。
うつ病に罹患している間は、とにかく精神的に落ち着かなかったという。

情けない。消えたい。申し訳ない。

自殺も考えた。そんな気持ちを一時的に和らげてくれたのは 『食べること』 だった。
ある日、食事のあと、すぐにドーナツを5個、無心で食べた──
食べているときに感情はない。ただただ、生きるために必要なドーナツだった。
気づいたときには詠子さんの体重は1年間で35キロ増えていた。

一方で、医師の言葉がきっかけで拒食も経験した。胃の調子が悪く胃カメラ検診を受けていたときだった。詠子さんが悩んでいることなど知らず、体型だけを見て「食べなければ痩せるよ」と半笑いで言われた。1か月ほど食べられなくなった。

体型は大きく変化し、大好きだったメイクもファッションも楽しめなくなり、自宅の鏡をすべて封印した。


■ 3年間 続いた暗闇

詠子さんからは「取材にNGはない」と言われた。苦しむ誰かを救うことができるなら、何でも話す、と。
私は自分自身の悩みをぶつけてみた。毎日体重計に乗る私は、自分を認められるようになるのか。自分を愛せる日は来るのか──。
詠子さんからの回答は意外だった。

「ダイエットしたい人のことは応援します。ただ、あくまでも数字は参考。雑誌で見るようなモデルと同じ体重になったとして健康的に過ごせるのか、魅力的に映るのかを考えないといけない」と。

ハッとさせられた。数字や漠然とした理想ばかりを追い求め、自分が一番魅力的に見えるときなんて考えたことがなかった。詠子さんのこの言葉によって、私のなかで何か縛り続けていたものが緩んだ気がした。


詠子さんの自宅でカメラ取材を行った。
その日、詠子さんのメイクはバッチリ。お気に入りと思われるベージュと黒のボーダーのワンピース姿。綺麗に塗られたカラフルなジェルネイル。いつも以上に輝きを増していた。

自室のクローゼットにはカラフルな洋服がいっぱいだった。服のサイズは4L~5L。
「着られるものもあるから…」と、病に苦しむ前の服も一部とってあった。

大好きなファッションを楽しめなかった日々は、文字通りどん底だったのだろうと思う。
「暗闇みたいな日々だった」と詠子さんは振り返る。
色鮮やかな服と対称的に、暗闇の日々は約3年間 続いた。