皆さんは「デフリンピック」をご存じですか?聴覚に障がいがある選手が参加する世界規模のスポーツ大会のことで、記念すべき100周年の大会が日本で初めて開かれます。大会に高知から出場する2人の選手の姿を追いました。

土佐清水市出身で高校3年生の岡田泰尚(おかだたいしょう)選手(17)。11月に東京で開かれる「デフリンピック」陸上400メートルリレーへの出場が内定しています。100周年を迎え、初めて日本で開かれるデフリンピックは21の競技が行われ、世界70を超える国と地域から、およそ6000人の選手が出場する予定です。
岡田選手は生まれながらに両耳が聞こえにくく、幼いころから人工内耳をつけて生活しています。3きょうだいの末っ子で、姉は陸上、兄は相撲といずれもスポーツ万能ですが・・・
(岡田泰尚 選手)
「自分でも自覚するくらい本当に遅くて…。小学校の運動会で、内側のレーンを越えてショートカットしたが、それでも最下位で、(当時は)すごく足が遅かったということは自分でも覚えています」
インターハイに出場するなど活躍する姉や兄の姿を見てきた岡田選手は、中学入学と同時に陸上をはじめ、今では世界の舞台で戦う選手に成長しました。
(岡田泰尚 選手)
「最初は本当にきついし嫌だなと思っていたけど、デフ陸上と出会って陸上って楽しいなと思うようになった」

(コーチ)
「頑張って膝つけといて!」
練習中はコーチの指導を的確に受けるために人工内耳をつけていますが、デフリンピックでは公正さを保つため、人工内耳や補聴器をつけて出場することはできません。このため、競技に臨む選手たちに対し、さまざまな工夫が施されています。
例えば、スタート音となるピストルの代わりに使われるこちらのライト。視覚でスタートのタイミングを知ることができます。

ただ、音がない世界ならではの困難もあるといいます。
(岡田泰尚 選手)
「『応援の声が届かない』っていうのが一番大きいかなと思います。デフリンピックは、全く聞こえないので、本当に自分との戦いになってくる。声援の力はすごいなと思う」

岡田選手にとって力の源となっているのが、家族の存在です。
(岡田泰尚 選手)
「(家族は)一番近くで応援してくれる存在です。全力で走る姿を見せたい。ものすごく感謝しています」
本番まで2か月を切った9月下旬。春野陸上競技場で県レベルの大会が開かれました。参加した選手の多くは聴覚に障がいがない健聴者。岡田選手は人工内耳をつけて男子400メートル予選に出場しました。
結果は…惜しくも決勝進出はなりませんでした。
(岡田泰尚 選手)
「課題もわかったので、デフリンピックに向けて修正していきたいなと思います。自分が出せるベストの力を尽くしたいなと思っています」

この大会には県内からデフリンピックに出場するもう1人の選手の姿もありました。香南市在住の中西椋(なかにしりょう)選手(25)。三段跳びと走幅跳の2種目への出場が内定しています。
中西選手は中学生のころから両耳が聞こえづらくなり、今は両耳に補聴器をつけての生活です。
中西選手は、ほぼ毎日南国市の高知農業高校で、10歳ほど年が離れた生徒たちと一緒に練習に励んでいます。

(中西椋 選手)
「高校生ってすごくシンプルなんで、自分を倒したいっていう感じがビシビシと伝わってきて、『今のままじゃダメやな』っていうのが実感できる。刺激的な部分が自分にはすごくあっているかなと思います」
指導するのはかつて三段跳びでアジア競技大会に出場し、銀メダルを獲得した高知農業高校陸上部の小松隆志(こまつたかし)監督です。

(小松隆志 監督)
「アスリートの中のアスリートって感じで、『自分に厳しく、人には優しく』という言葉が彼にふさわしい言葉。最高の状態で(デフリンピックを)むかえさせてあげたいという気持ちです」
ひたむきに努力を惜しまない中西選手。本番では補聴器がつけられないため、聴覚に頼りすぎずに走る練習を心がけています。
(中西椋 選手)
「バランスやリズムが取りにくいので、聞こえの悪いほうに曲がっていたりもしてしまう。ライン上を走る、ちょっと横によって走る、目印みたいなものをつけて走っている」
生徒たちから見た中西選手の印象は?
(陸上部員)
「『農業のムードメーカー』って感じ」
「同級生みたいに気軽に話しかけてくれたり、ボケたりしたら、ツッコんでくれたりボケてくれたりするので、優しいです」
「太陽みたいに明るい存在です」

(中西椋 選手)
「ありがたいなっていう気持ちでいっぱいです。メダルを取って今まで関わってくれたり支えてくれたりした人にお返しができればと思っています」
東京2025デフリンピックは、11月15日(土)東京体育館で開幕。陸上競技は17日(月)から25日(火)まで、駒沢オリンピック公園で行われます。
(岡田泰尚 選手)
「普通の人と変わらず競技をしているので、なにか特別違うってことはないので、『1人のアスリート』として応援してほしいという気持ちが一番強い」

(中西椋 選手)
「聞こえない中でも必死にやっている選手がたくさんいるので、特に壁を感じずに気楽に応援してもらえたらいいかなと思います」
