“負の成功体験”が残酷なことに

飲食店アルバイトの傍ら、家事をこなすなど、一見、問題ない社会生活を送っていたようにも見えるA女被告(当時)。

「被告人は家事全般をこなしていたが?」
「アルバイト先からは『仕事ができる』という評価も得ていたようだが?」

検察官から興野医師に質問が向けられる。

「そこだけを見ると“一般人”だ。仕事の性質が合っていたのだろう」

「バスタオルを持って竹林に行ったこと、その途中で人に見られると思い隠れたことなど、自分の意思で行動していたように見えるが?」

犯行の計画能力がA女被告(当時)に備わっていたのではと、検察が切り込む。

「人にばれるから隠れるというのは稚拙で、目先のことを表面的にしか考えられないということ。取りつくろう能力はあったのだろうが、善悪の判断はできなかったと評価できる。そもそも普通であれば、2度も産み落としはしない」

妊娠後、A女被告(当時)が中絶費用などを検索していた点を検察が指摘すると「考えるポイントがずれている」と興野医師。

「最初の出産で『成功体験』をしてしまった?」

「負の成功体験ですよね、間違った学習をしてしまった。極悪非道な人ではないのに、結果として残酷なことになった」

興野医師は「避妊していれば、救急車を呼んでいれば、こうはならなかった」と、事件を防げたいくつもの“if”に触れ、A女被告(当時)の責任や問題点についても言及した。

その上で
「社会のセーフティネットからことごとく漏れた事例だろう。セーフティネットに自分からアクセスできるかどうかが分岐点となる」