倉本聰の脚本術とは…その③語尾に人間が現れる
是枝さん:倉本さん脚本のドラマを観て、改めて脚本を読むと、失礼ながら、ひらがなとカタカナの台詞の違いを"分っている人"と"分かっていない人"が結構、分かる気がします。最近では『風のガーデン』(2008年・フジテレビ)の緒形拳さんが、久しぶりに中井貴一さんと会うシーンのヨォは、芝居を見てカタカナだと思ったんですが…
倉本さん:『優しい時間』(2005年・フジテレビ)というドラマで、最後にオヤジが、久しぶりに息子と会うシーンがあって、脚本にはヨォと書いたんです。そうしたら役者はヤァと言ったんです。僕は、とても頭に来たんです。そのシーンでのヨォとヤァは相当違うんですよ、僕の中では。でも、演出家も語尾を変えることを許容しちゃった。ヨォとヤァは相当違うと思うんですが、是枝さんは、どう思われますか?
是枝さん:相当違うと思います…だから倉本さんは『風のガーデン』で、リベンジを果たしたんだなと思ったんです。"もう一度、ここでヨォを出してきたぞ!"と。
倉本さん:このエピソードは知っていました!?
是枝さん:脚本に"ヨォ"と書いていたのに、実際には"ヤァ"と言われてしまった話は、倉本さんのエッセーに書かれていたので、読んでいました。なので『風のガーデン』を観ていて、父親が息子に会うシーンで、ヨォと言ったので、"おっ、今回は正しく言ったぞ!"と思いました。このしつこさが、脚本家には大事だと思いました(笑)。
倉本さん:台詞の語尾を変えられちゃうんですね。勝手に、語尾を自分の言葉にしてしまう。そうすると、キャラクターの性格が変わるんです。それで、あるドラマで"台詞を一語一句変えてくれるな!"と、つい言ったことが拡散され、不評を買ってしまって、もう困っているんです(笑)。
是枝さん:(元HBC演出家の)長沼修さんの著書に『人を取材するときは語尾をメモしろ。そこに人間が現れる…と倉本さんに言われた』と書いてあったのが印象的でした。やはり、語尾に人間が現れますか?
倉本さん:これは絶対、現れますね。
HBC創立70周年記念 倉本聰×是枝裕和 特別対談
『“あのとき”から~北の大地とドラマと…』(2021年放送)より







