学ぶ側から、実行する側へ

円山西町では、ことし7月にもヒグマ勉強会が開かれました。
町内会長や専門家の話の後、後藤さんもスピーカーの一人として、マイクを持ちました。
「ヒグマレザープロジェクト」について発表するためです。

後藤さんは、「KEETS」という、皮革製品を製造・販売する会社を営んでいます。
牛革を使った製品のほか、エゾシカの革を活用した製品づくりにも取り組んできました。

冬のワークショップ参加前から、「ヒグマの革を使った製品も作れないか」と考え、仕入れ方法などを模索してきたといいます。

そこには、「北海道でやむを得ず捕獲・駆除された野生鳥獣の尊い命を、一頭でも、一部でも無駄にしたくない」という思いがあります。
後藤さんは、勉強会に集まった住民たちを前に、クラウドファンディングで資金を集めたいと思っていること、そして、その資金はヒグマの革製品の製造のためだけではなく、町内会のヒグマ対策活動への寄付にも充てたいということを伝えました。
「ひとごとじゃない問題で、本当に身近にヒグマがいた。このまちに住んでいて、こういう仕事をしている自分が、やらない手はない」

9月15日、クラウドファンディングがスタート。
「失われた命を、価値あるかたちに変える」ことをテーマに、「ヒグマの爪型チャーム」と、「ループキーホルダー」を制作しました。

思いに共感した人が、この製品をクラウドファンディングサイトを通じて購入した分の収益が、次のヒグマ革の仕入れや製造、そして円山西町町内会のクマ対策に充てられます。
やむを得ず駆除されたクマの命を活用し、そして次の出没や被害を防ぎ、クマの命も人の命も守ることにつなげようという活動です。
いま、全国各地でクマの出没が相次いでいます。
その最中は、連日ニュースで扱われ、地域には緊張感が走ります。
でも、「そういえば数か月前、数年前に近所にクマが出たはずだけど、結局どうなったんだっけ?」という方も多いのではないでしょうか。
出没のその後は、なかなか知られることがなく、その結果、また同じ課題が繰り返されてしまいます。
ひとごとにせず、町内会全体でクマについて学び、対策に乗り出した円山西町。
自分だからできることに挑戦し、地域に貢献しようとする後藤さん。
こうした、地域として、個人としての行動の積み重ねが、着実にクマに強いまちを作っていきます。
実際に10月16日、円山西町ではクマの目撃がありました。
ですがその前から、町内会は最近の札幌市内の出没状況を見て、「自分たちのまちにも、ひとごとではない」と考え、注意を呼びかけたり、登校の見守り活動をしたりしていました。
さらに、それぞれがスマートフォンから地域の情報を得られる「デジタル掲示板」への参加を呼びかけ、出没時にすぐに情報共有できる体制づくりにも取り組んできました。
地域内で目撃された日、住民自らが自治体のお知らせよりも早く出没を知らせ、「家から出ないで」と声をかけ合いました。
日ごろから意識と備えをしていたからこそ、いざというときに命を守る動きができるということを実感する一日でした。
文:幾島奈央
撮影:Haru(9月のKEETS店内の写真)
※掲載の内容は取材時(2022年12月~2025年9月)の情報に基づきます。