匿名を望む母親と赤ちゃんの命をどう守るのか?赤ちゃんポストを17年前に始めた熊本の病院を訪ねました。日本で初めて「赤ちゃんポスト」を開設した慈恵病院(9日・熊本市)
日本で初めて「赤ちゃんポスト」を開設した熊本市の慈恵病院です。
伊藤凛記者
「こちらの長い小道を歩いて行きますと、その先に見えてくるのが『こうのとりのゆりかご』。日本で初めての赤ちゃんポストです」自治体初の設置許可で開設された赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」(慈恵病院・熊本市)
熊本県内では、2005年から2006年にかけて乳児の遺棄事件が相次いで発生。そこで慈恵病院が名乗りを上げ、当時の熊本市長が自治体として初めて、設置許可を決断しました。
5月で開設から17年。「ゆりかご」にこれまでに預けられた子どもは170人以上になります。赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」(慈恵病院・熊本市)
慈恵病院の蓮田健院長は、匿名を求める女性の意思を尊重する、当別町の坂本さんの活動に理解を示します。
慈恵病院 蓮田健院長
「匿名性が最も大事だと思っています。行政には絶対知られたくないとか、行政を信用していない人が多いです。ですから、そもそも必要としている人たちは、行政には最初から相談しない」
慈恵病院 蓮田健院長
「彼女たちにとって、安心して赤ちゃんを預けられるところが大事なわけで、彼女たちが守り通さないといけない匿名性を受け入れなければ(乳児の)遺棄や殺人の問題改善につながらない」
匿名を望む女性の存在に、道はどのように応えるのでしょうか。
北海道 こども政策企画課 中村浩課長
「(北海道の窓口に)相談していただくときには、匿名性は確保して保障した形で相談を受けられる。相談を重ねていくうちに、そこで終わってしまう方も中にはいるかもしれませんが、寄り添った相談対応していくと、匿名のままは、今まで相談受けているケースの中ではなかった」
蓮田院長は、道の見解に疑問を呈します。
慈恵病院 蓮田健院長
「現実、赤ちゃんの遺棄や殺人があるわけです。行政の人たちは一生懸命されてると思いますが、行政からご覧になるこの世界と彼女たちが見ている世界は違う」
慈恵病院 蓮田健院長
「匿名の人たちを受け入れないということは、お腹にいる赤ちゃんを見放していることになる。行き場がなくなるから。赤ちゃんのためと言いながら、見放しているわけなので、私はむしろそちらの方が責められるべきじゃないかなと思います」
身元を明かさなければ受けられない行政サービスや医療。匿名を求める女性や赤ちゃんを救うことはできるのでしょうか?支援のあり方が問われています。
開設から2年を迎えた、北海道当別町の赤ちゃんポストですが、これまで直接預け入れられた事例はありません。
一方、海外では赤ちゃんポストが普及する国も複数あり、韓国では匿名のまま医療機関で出産することができる「保護出産」を国が制度化、7月から始まります。