2011年3月11日に発生し、甚大な被害をもたらした東日本大震災。2023年で12年が経ちます。福島第一原発がある福島県双葉町では、2022年ようやく一部で避難指示が解除され住民の帰還が始まりました。その双葉町で2023年の春、岐阜の町工場が社運をかけたプロジェクトを始動させます。“魔法のタオル”で双葉町の復興に挑戦する姿を取材しました。

「福島の方々に働いてほしい」福島大学出身の社長が双葉町に社運を賭けた工場を建設

岐阜県安八町にある「浅野撚糸株式会社」(以下、浅野撚糸)は、2023年で創業56年。5年かけて開発した新しい糸でつくったタオル「エアーかおる」で全国的に知られています。
従来のタオルに比べ、ふんわり感は2倍。吸水力も1.5倍あり更に乾きやすいと主婦層から大好評!1400万枚以上売れる大ヒット商品です。

そんな浅野撚糸が今、社運をかけて進める一大プロジェクトがあります。

(浅野撚糸・浅野雅己社長)
「双葉スーパーゼロミル。福島の方々にここで働いていただきたい」

被災地・福島県双葉町での新工場建設です。
12年前の東日本大震災で、福島第一原発の地元にあった双葉町は原発事故で町民全員が避難を余儀なくされました。浅野社長は、福島大学の出身です。

(浅野撚糸・浅野雅己社長)
「考えると当時駆けつけることもなく、ボランティアに参加することもなく、なんていう人間なんだろうと自責の念が湧き上がってきた。帰還する人たちの働き場所が、我々に対するニーズと感じた」

福島大学出身の浅野社長。町の復興のため、住民の働く場所を作ろうと2019年、新工場建設を決めました。

「地元の人の雇用が進んでいない」当初の目的だった地元住民が雇用できない理由

双葉スーパーゼロミルは浅野撚糸の新しい事業所として建設が進み、本社工場の約2.5倍の設備・機材が入る予定。2022年6月、浅野社長が順調に進む建設工事を見守る裏で、根本的な問題が起きていました。

(浅野撚糸・浅野雅己社長)
「地元の人の雇用が進んでいないんです」

その理由は、双葉町に帰還する住民が少ないため。2022年8月に避難指示が解除されましたが、帰還した住民はわずか60人ほどに留まっていたのです。

(現在は町外に避難・双葉町民)
「もう(避難先に)家を建てましたし、ここに帰る理由が何もないですね。子どもたちは同居していたけど、別の地区で今は仕事している。その子どもたちも、もう家族を持っている」

避難先で新たな仕事に就き、家を建て、既に新しい場所に根を下ろしている人も多く、ほとんどの町民にとって双葉町に戻る選択は現実的ではないのです。