人混みを歩くと驚かれてしまう・・・

名古屋の大須商店街。サブカルチャーの聖地としても知られるこの場所は週末になると多くの若者で賑わう。


10月の終わり、商店街に大きな黒いバッグを背負って歩く男性がいた。男性が通ると、周りの人は驚いて振り向く。

「ごめんなさい」

その目は伏し目がちで、どこか申し訳なさそうにしている。


名古屋市中区に住むウーバー配達員の棈松怜音(あべまつ・れおん)さん28歳だ。自分の意思に反して突然、声や手足が動いてしまう“チック”。その症状が重い「トゥレット症」という難病と闘っている。

私が怜音さんと出会ったきっかけは今年2月、仕事終わりに頼んだウーバーイーツ。料理を運んでくれたのが怜音さんだった。

怜音さんは、約15秒に1回、突然大きな声が出てしまう。配達の商品を受け取る際は迷惑にならないよう、なるべく店の外で待つようにしているのだ。


(怜音さん) 
「ピンポーン。ウーバーです」

怜音さんには“マイルール”がある。

(ウーバー配達員・怜音さん)
「ただでさえ、声で迷惑をかけてしまっているので、商品をお渡しする際は怖がらせないように腰を落として、笑顔で手渡しするようにしています」


配達の際はできるかぎり丁寧に。不快な思いをさせないよう怜音さんなりの気遣いだ。注文したお客さんは、怜音さんのことをどう思っているのだろうか。

(記者)
「Q声は聞こえてきましたか?」

(注文した客)
「ちょっと声は響いて聞こえてきましたけど、“事前のお知らせ”があったので『あ~』となったぐらいです」

(怜音さん)
「ありがとうございます。頑張ります」

“事前のお知らせ”とは怜音さんが配達前、お客さんに送るメッセージのこと。自分にはチックという病気があり、突然体の動きや声がでてしまうことを説明している。ちなみに怜音さんは、私が配達を頼んだ際も同じメッセージを送ってくれた。

イヤホンのワケは「悪口を聞きたくないから」

(怜音さん)

「なんだお前!と言ってくる人もいるので、そういう時は”イヤホン”で蓋をして聞かないようにする。目は伏し目がちで歩くようにしている」


イヤホンをしていても、冷たい視線は避けられない。取材中、怜音さんを見て笑う人やモノマネをする人にも出くわした。

(怜音さん)
「よくあることです。1日に1回は声を真似されますから…。でも、これが”僕”なのでしょうがないです」