水産資源の宝庫・三重県で今、伊勢エビやアジを網ごと食いちぎってしまうウツボが大量発生しています。漁師たちに「バケモノ」と呼ばれているウツボ。大量発生の背景には温暖化が引き起こす深刻な問題がありました。

ウツボが増えたのは潮の流れが原因?


雄大な自然に囲まれた三重県。伊勢エビにアワビ。黒潮の流れ込むこの海は、水産資源の宝庫です。しかし今、ウツボが大量発生していて、脱皮した伊勢エビなどを食べてしまうというのです。

(友栄水産・橋本純社長)
「バケモノはぼくらの腕くらいは充分ある。一番でかいやつだと長靴サイズ」

南伊勢町で水産会社を経営する傍ら、漁師をしている橋本純さん。「バケモノ」とはウツボのことで、2~3年前から増えたと話します。しかし危険な種類の魚のため、触ることもできません。

ウツボ捕獲の現場について行くと、前日に沈めておいた筒のような仕掛けの中には、ウツボの姿が。鋭い歯とふてぶてしい面構えから「海のギャング」という異名も持っています。仕掛けの中からは次々と…。


(友栄水産・橋本純社長)
「(ウツボは)歯が後ろ向きに生えている。(噛みついたら)絶対離れないようになっている」

磯の生態系の頂点に立ち、伊勢エビやアジを網ごと食いちぎってしまうこともあるというウツボ。小魚だと、丸飲みしてしまいます。

橋本さんは、ウツボが増えたのは「潮の流れ」が原因だと指摘します。

(友栄水産・橋本純社長)
「(色が違うウツボは)もともとあまり見なかったけど見るようになってきた。温暖化というか黒潮の影響かな。南の方から入って来ている」

5年ほど前から 暖かい黒潮が蛇行し海水温が上昇したことで、三重県一帯の磯の生態系が変わったといいます。この海で一体何が起きているのか。

かつては「海藻のじゅうたん」だった海底も今は砂漠化


潜水歴43年のプロダイバー清水憲夫さんは、3年前から海の中の異変に気がついていたと言います。清水さんとともに、海の中を覗いてみました。

(プロダイバー・清水憲夫さん)
「海の中ね、丸坊主ですよね。海藻が全くない」

水質が変わり、海が砂漠化する「磯焼け」の状態に。清水さんが2009年に同じ場所で撮影した映像と、今の海の中を比較すると、全くの別世界が広がっていました。

(プロダイバー・清水憲夫さん)
「昔はミルの仲間が(海面)一面に生えていて緑のじゅうたんという感じ」


2009年の海の中はアラメやミルと呼ばれる扇形の海藻の仲間が生い茂っていますが、ここ2~3年は岩の表面にわずかに苔のように残っているだけです。

また、海の生物にも異変がありました。

(プロダイバー・清水憲夫さん)
「キクメイシモドキというサンゴ。この海は冬は本来10度ぐらいに下がる。そんなところでは到底サンゴは生息できないが…」