ことし6月、初めてご本人とお会いする日、私たちは緊張していた。今回の取材相手はトヨタ自動車の佐竹功年さん。私も同行するプロデューサーも大学まで野球をしていたので、もちろん佐竹さんの名前は知っていた。
私は「社会人野球界で活躍している、とんでもない球を投げる投手」「独特な投げ方でサングラスをかけてプレーする人」という印象。

その佐竹さんがことし7月の対抗野球大会を最後に引退する。私たちが緊張していたのは、引退するときだけ取材させてほしい、という厚かましいお願いをしに行くという自覚があったからだ。
すごい人に会えるという元野球人としてのワクワクと、いくら仕事とはいえ、失礼にあたるのではないかという不安が交差するなか、6月末に雨上がりのトヨタスポーツセンターを訪ねた。

佐竹さんは颯爽と室内練習場にやって来た。「初めまして!」。おそるおそる名刺を差し出すと、晴れやかな笑顔で対応してくれた。「ひとまず、良かった。というか、サングラスをしていないとこんな顔なんだ」。引退を間近に控えた緊張感や悲壮感は一切なかった。