後ろをついて来るその足音

当時、准看護師として働いていた曽我さんは、週末になると実家に帰り、1週間分の洗濯をするのが習慣でした。

48年前のあの日はお盆前日の土曜日で、いつもと変わらない夜のはずでした。

「近くの商店に買い物に出かけ、その帰り道、後ろから足音が聞こえてきました。少しずつ近づいているような気はしたのですが、特に気に留めることもなかったのです。でもこの足音は私たちを追い抜くほどのスピードではなく、後ろをついてきているような感じでした」

不審に思い後ろを振り返ると、3人ほどの男性が歩いていました。
「なんだろう、男の人がついてきてるよ、気味が悪いね」
母と話しながら、少し早歩きで家へ向かった次の瞬間、男たちが走り寄ってきました。

「私と母はどこかの家の植え込みに引きずり込まれたのです。手足を縛られ、南京袋のようなものをかぶされ、それから船に乗せられ、沖でさらに大きな船に乗り換え、翌日、北朝鮮というところに着いたのです。そのときまで北朝鮮という名前の国があることを知りませんでした」

「ただただ恐怖に怯え、心細く、早く母の顔を見たいと思っていました」

しかし北朝鮮に着いた後、母の消息を教えてくれる人は誰一人いなかったのです。