2月に閉店した新潟市中央区の地下街『西堀ローサ』の老舗レコード店。
デジタル全盛のなかで、“古き良き”にこだわり続けたお店とお客の物語です。

閉店前のある日。
午前10時の開店に合わせてシャッターが開くと出迎えてくれるのは、所狭しと並ぶレコードたち。
こちらの男性は2時間も店内でレコードに食い入り…。
そして常連客の自宅には、CDがぎっしり詰まった段ボールが…。
大人だけではありません。
ビートルズに見せられた学生の姿も…。
老舗レコード店に集まる人間模様は、驚きの連続でした。
レコードや中古CDなどの販売と買取をする『キングコング』には、およそ10万点のレコードやCDのほか、楽器や雑貨などが所狭しと並んでいます。
店長の長井瞳さんと常連客とで交わすいつもの時間に、カウントダウンが迫っていました。2日後がこの場所での営業最終日です。

「日曜日までって考えると、近くても月曜日にいらしたときにシャッターしまってたら…なので、できるだけ自分から言うようにしています」
西堀ローサが開業したのは1976(昭和51)年。
当時の資料映像には、多くの人で賑わっている様子が残されていました。

「毎日、どうなったかってお客様に聞かれない日ってずっとなくて…」
「スタッフと同じくらい、行く末を心配してくれる人がいらっしゃるってありがたいですね」
バブル期直後の1993年に、同じ古町地区にかつてあった商業施設・カミ―ノ古町でオープンした『キングコング』。
その後、2度の移転を経て、2010年に西堀ローサに店を構えました。

「地下街は、お客様が買取する品物を濡らさずに持ってきていただけるっていう点が、レコード屋としては一番大きいかなって思います」
そんな西堀ローサからの撤退を余儀なくされた今回。
3回目の移転先に選んだのも、同じ古町エリアでした。
「ローサに残れるなら残るのが一番いいんですけど、絶対にここから出なきゃいけないっていうことで…」
「皆さんが今までここに来てくれた感覚と変わらずに、迷わずに来ていただける近い場所が、今回のその移転先ですね」
この日は平日だったにも関わらず、閉店3日前の店内には多くのファンが訪れていました。
「40~50年位前のものがたくさんあるんで、懐かしいですね」
2時間ほどレコードを中心に見ていた男性は、レコードプレーヤーが自宅で見つかったのでここを訪れたそうです。

「父親の形見みたいなのがあったんで、それを引っ張り出して最近聞いてます」
「死んだ父親は民謡とか昔の歌謡曲しか聞いてなかったんで、若い時に聞いたフォークソングみたいなのを聞こうかなと思って…」
店内には学生らしき若い人の姿もみられます。
なんと、中学2年生のころにビートルズに魅了されたとか。
映画でレコードの存在を知り、お小遣いを貯めてプレーヤーを買ったそうです。

「集めた頃から、学校帰りとかに時々ここへ来ていたので、さみしいなって」
長年通う常連客の姿も。
「地下の秘密基地みたいな感じだったので…」
「ローサも、新潟の今後も含めて、ちょっとさみしさもあるんですけど」
月に1回ほどのペースで通ううちに、店を手伝うまでの関係になっていました。
「カミ―ノ古町の頃から、CDを買ったり売ったり、レコードをみたり雑貨を売ったり…。あと、この値札、うちの会社で印刷しているんですよ」
「ここは新潟の音楽ファンの良心だと思いますよ。売って良し、買って良し、しゃべって良し…。音楽で盛り上がったことがある人なら、ここに来たらハマっちゃうんじゃないですかね」

多くの人が足しげく通う古き良き音楽の世界。
その魅力を聞いてみました。
【東区 21歳学生】
「今の音楽にはないものが詰まっている」
「クラシックと現代音楽の中間、組み合わせがとても良くて、年代が別なんですけど、特にビートルズは聞いていて楽しい曲で」
【西区 50歳】
「いくらスマホで音楽が聞けて複製できても、感動は複製できませんからね」
新潟市中央区に住む時田雅祥さんは、学生時代にレコードで聞いていたものをCDで買い戻しているそうです。

「その昔にタイムスリップできるというか、みんなその昔のなつかしさを感じに来るんじゃないですか?今のお店に行けば今のものはあるんだけど、昔のものはこういうお店じゃないとないから」
時田さんのご自宅でコレクションを見せてもらいました。
段ボール箱の中には大量のCD。

「500~600くらいかな、もっとあんのかな…」
東京の電機メーカーでエンジニアとして働いていたという時田さんは、CDを見るとその頃の思い出が蘇るそうです。
「森高千里をね…。これはね社会人の5年生ぐらいだったと思うな。大変な時期といってもまだペーペーだから。うん、ワイワイやってた頃ですよ」
定年退職まで2~3年に1回のペースで転勤があったそうですが、それでも手放さずに持っていたのがこのCDでした。
「物を増やさないってのが私の人生の鉄則ですよ。その中で重たいCDを持ち運ぶ理由は、自分が好きで聞いてきたものが、一つの集大成でビジュアルで見えるから」
「例えばこれ、山梨に引っ越した2年目の時に聞いてたなってすぐわかる…」

手に取る人の数だけ思い出が記録されているレコードやCD。
『キングコング』店長の長井瞳さんは、音楽を通してお客さんとつながれたことがこの店での思い出だと話します。
「皆さんと仲良くなれたことが一番じゃないですかね。音楽から派生していろいろ何かお喋りが結構広がっていったりするんで、それがやっぱりすごくいいな、よかったなって」

そして、移転後の期待も話してくれました。
「地下だったから知らなかったっていう方も絶対数いると思うので、今度は地上に上がったことで、ふるまちモールの通りを歩く方が、新しくうちの店を知っていただける機会にはなると思うので、すごくプラスじゃないかなと思います」
移り変わる時代…。
それでも音楽を愛する人たちは、“居場所”が変わっても集い続けます。