心が落ち着かないまま、デスクの指示で向かった先は珠洲市春日野地区の山奥。荒れた道路を取材車がパンクしないようにゆっくり進んでいくと、そこには全壊した1軒の住宅と焼けて真っ黒に炭化した納屋の残骸がありました。

私が訪れる2日前、焦げた納屋からこの家に住んでいたとみられる65歳の男性の遺体の一部が発見されたのです。男性は避難所に行っていなかったとの情報があり、周辺の集落で取材していると、近所の住人がこう答えてくれました。
「彼に会った時、私は2回くらい言ったんですよ。『避難すれば』と。彼に言ったんだけど、『大丈夫』みたいなことを言っていた」

死亡したとみられる男性は、柴犬とネコを飼っていて「ペットがいるから避難所にはいかない」と近所の住人に話していました。男性が飼っていた1匹のネコが、もう会うことのできない主人の帰りをずっと待っていました。
