台湾総統選は与党・民進党の頼清徳氏が、野党の2人を下して初当選した。その直前に起きた石川県能登半島の地震は、総統選にとって「もう一つの舞台」だったという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、1月18日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で理由を語った。
◆特別な意味を持つ「台湾と石川県」
台湾といえば、能登半島地震発生直後にいち早く支援を表明した。日本円で6000万円の支援金を贈ると台湾外務省が発表すると、これに呼応するように、民間からも義援金がどんどん寄せられ、1月5日から10日までの6日間だけで、日本円で約12億円を超えたという。
これとは別に、今回は「選挙が終わった今だから」という話をしたい。元日に、能登半島で地震が発生したことを受けて、日本にある台湾の代表処(=大使館に相当)は、緊張に包まれた。
もちろん、北陸地方で、地震に遭遇した台湾からの旅行客を、どのように無事に保護するかという問題もあった。だがこれから話すことは別の視点からだ。前提として、台湾の人たちにとって石川県は、日本の中でも二つの理由で特別な意味を持つ。
一つは戦前の土木技師・八田与一だ。与一は日本の植民地時代の台湾でダム建設に従事し、当時東洋一といわれたダムを台湾の南部で造った。合わせて水路を整備し、干ばつに苦しんでいたこの一帯を穀倉地帯にした。いわば恩人である八田は石川県金沢出身。台湾では歴史の教科書に登場する。
もう一つの理由は、能登半島の和倉温泉にある老舗旅館「加賀屋」だ。日本で指折りのこのホテルは、台湾の人たちにとっても「一度は泊ってみたい旅館」であり、それが高じて、台北郊外の温泉地には加賀屋の系列ホテルまである。
「加賀屋式のおもてなし」が人気を博し、加賀屋という名前は台湾でも有名だ。そもそも金沢をはじめ、石川県は人気の観光地のひとつだが、これらの理由で台湾との結びつきがあり、台湾からの旅行先として人気が高い。
◆失態が許されなかった能登半島地震の対応
その石川県で、大きな地震が起きた。おそらく台湾の旅行客も大勢いただろう。東京と大阪にある台湾の出先機関は、迅速に台湾の旅行客の安否を確認し、安全を確保しようと努めた。
これまで述べた通り、石川県で起きた地震は当然、台湾での関心も高い。台湾政府の対応がもたもたすると、台湾のメディアから叩かれ、インターネット上で政府への非難があふれてしまう。しかも地震が発生したのは、総統選挙の直前というタイミングだ。もし失態とされれば、政権=与党・民進党への攻撃材料になる。
特に、日本にいる台湾のトップ、駐日代表(=駐日大使に相当)は、民進党の重鎮が務めている。かつて、行政院長(=首相に相当)を経験し、2008年の総統選挙にも民進党から出馬した人物だ。その民進党の重鎮がトップを務める日本で、対応にもたつくと、一層攻撃材料になりやすい。
台湾にとって、日本はアメリカとともにとりわけ重要な国だ。だから東京、それにワシントンに置く代表だけは、与党の重要人物=政治家が務めている。次の副総統に就任する蕭美琴氏は昨年11月まで駐米代表(=駐米大使)だった。日本と米国以外の国に置く代表は職業外交官を派遣している。日米だけは別格なのだ。