今月8日から1週間、能登半島地震の被災地を取材した。石川県輪島市では、市立中学校の生徒401人のうち、保護者の同意が得られた生徒約250人(16日時点)を県南部の白山市に「集団避難」させる。しかし、中には「行かない」選択をした生徒もいる。
(news23ディレクター 柏木理沙)

“集団避難”「行きたいと思わない」輪島市の中学1年生

七尾市の避難所に身を寄せている早瀬陽子さん(40)と、輪島中学校1年の太洋さん(12)。
輪島市鳳至町の自宅は、壁が崩落し、窓ガラスは吹き飛び、大型家具も全て散乱。建物自体は何とか建ってはいるものの、1階部分がつぶれた隣の家屋がもたれかかっている状態だ。
移動手段の車は、その家屋と散乱した物に挟まれて動かすことができない。
陽子さん家族は命からがら自宅を脱出し、親族の力も借りながら、陽子さんの出身地である七尾市にたどり着いた。

(提供:早瀬さん)
(提供:早瀬さん)

早瀬陽子さん
「生きているだけで奇跡。奇跡的に助かった。命があるだけで、他に何も望みません。こうやって周囲に助けてもらって温かい場所で寝られる、ご飯もあって、それだけでいい」

輪島市では、中学生の集団避難が実施される。避難先は、金沢市よりも南に位置する白山市。輪島市と白山市は、100km以上離れている。避難期間は2か月ほどで、家族とは離れて生徒だけが避難する形だ。
市によると、市立中学校の生徒401人のうち、約250人が避難する意向だと言う(16日時点)。

太洋さんは白山市を訪れたことはなく、全く馴染みがない場所だ。
連絡が取れる同級生の多くは、避難すると言うが…

太洋さん
「行きたくないです。知らない人と一緒は嫌です」

輪島市が集団避難に関する方針を示したのは1月10日。保護者から学校への同意連絡の締め切りは12日で、考える時間も十分にはない。避難先は白山市内で2箇所あり、必ずしも親しい友人と一緒に過ごせるかどうかはわからない。

陽子さん
「2か月間、親と離れて、子どもたちの精神的なサポートもどうするのか、誰が面倒見てくれるのか、何の連絡もない。ただ『同意するか、しないか』と聞かれても、親としても不安。子どもたちも傷ついているし『行かんとダメだよ』とも、私らには言えないので。本人が行きたくないと言うので、無理やり行かせることもできないです」

輪島中学校の始業式が何日の予定だったかは「忘れた」と話す太洋さん。
避難所で1日をどう過ごしているのか聞くと、寝たり、いとこたちと遊んだりしていると言う。

太洋さん
「勉強道具は、がれきの下に埋まっていて、今何も持っていないので勉強できません。避難所の中で小さい子が遊んでいるのを見ると、心が癒されます」

夜に突然、避難所の周りをランニングした日もあったそうだ。

陽子さん
「寝なさいと言ったんですけど、ストレス発散になっているのですかね」

避難している七尾市でも断水が続き、体育館に布団を敷いて過ごす生活。
合理的に考えれば、しばらくの間は、少しでも整った環境で過ごしたほうがいいかもしれない。ただ、命を失いかねない状況から逃げ出してきて間もない今、家族と共にいることで少しでも不安を和らげている側面もあるのではないか。
太洋さんに「家族と一緒にいたいという気持ちもありますか?」と聞くと、「うん」と小さく頷いた。

陽子さんは、輪島塗の箸の職人のもとで働いていたが、職場も壊滅的な被害を受けた。太洋くんを含め息子3人。さらに、陽子さんの母親は朝市で仕事をしていたが、その朝市でも大規模火災が起きた。家族はこれからどうやって暮らしていくのか、全く先は見通せない。

陽子さん
「親族も七尾市にいるので、ここで新たに暮らしていこうかなと考え始めてはいますが、今はまだ具体的に行動を起こす段階でもないし、本当にどうしたらいいのかなって…。でも『生きているだけで丸儲け』という、お笑い芸人の明石家さんまさんの言葉に救われます。家族の命が助かった。それだけで恵まれていたんです。ゼロからの再スタート。一からやり直しやな」

被災地では、一見明るく見える子どもたちも、不安を抱えながら懸命に生きている。そして、1週間たっても2週間たっても先の見通しが全く立たない状況で、気持ちを吐き出すことができない親も多い。大切な人を亡くした人もいる。地元を離れるかどうかの選択を迫られ、2次避難・集団避難を望む人もいれば、そうではない人もいる。
16日時点で避難者は17600人以上(1.5次・2次避難含む)。これに加えて自宅で過ごさざるを得ない人も多数いる。
まずは断水や寸断された道路の再開など、一刻も早いライフラインの復旧が早急に必要だが、それとともに、被災した人たち一人一人の事情に応じたきめ細やかな支援も同じくらい大切なことだ。